江崎彦左衛門先祖 その5
椽之上ゟ鐵炮を構候者目中ニ乗セ候故先祖其 | 垂木の上から、鉄砲を構えた者が目標を定めていたので、先祖の江崎彦左衛門は、その |
者尓椽際迄縋(すがる)向ひ候處鉄炮を抛捨縋入候を | 者に向かって垂木の際につかまりながら行ったところ、鉄砲を放り捨てて入ったのを |
追懸候得共椽其外座上迄歩行不成様ニ拵置 | 追いかけましたが、垂木に捕まりながら、(敵が)集まっている所まで歩かせないように、囲って |
殊ニ火遠懸介候ニ付煙強ク難見分漸々慕入候 | とりわけ火の手があがっていたので、煙が強く見分けができず、少しずつ日暮れになってきたので、 |
内弥兵衛方より権右衛門又七郎と聲を懸候ニ付其場 | 弥五兵衛の方から権右衛門、又七郎と声をかけたので、その場所 |
江打向候へハ弥兵衛兄弟火中ニ縋入候を先祖 | へ向かうと、弥五兵衛兄弟が火の中にすがり入ったのを、先祖の江崎彦左衛門は、 |
慕入候へ共右兄弟ハ罷出候處迄足留メを抜置 | 後を追って入ったところ、阿部兄弟が出てくるところまで、足留めをすることなく |
火中ニ馳入候節踏候然躰ニて歩行弥以難成住所 | 火の中に馳せ入った時に、このような体では歩行すら困難なので、どこにいるのか、その場所が |
存不申候処権右衛門聲ニて九郎兵衛早引取可申由ニ付 | 判らず権右衛門は声を出して、九郎兵衛よ早く引き返せと言った由で |
権右衛門又七郎一同ニ引退キ申候左候而其場之趣 | 権右衛門と又七郎も一緒に引き退こうと、その様にして、その場のありさま |
一口メモ
この場面での阿部兄弟は、先の光尚君御家譜抜書の冒頭に書かれている通り、次男阿部弥五兵衛、三男市太夫、四男五太夫、5男七之丞ですが、この原文では次男は「弥兵衛」と書かれています。阿部茶事談などの書籍を通しても「弥五兵衛」が正しいので、ここでは「弥五兵衛」と、書き改めています。
又、9行目に「九郎兵衛」が登場しますが、これも明らかに主役である「江崎彦左衛門」を指しています。「先祖」という言葉でも「江崎彦左衛門」を指していますが、これは「江崎九郎兵衛」は、事件後に「江崎彦左衛門」に改名されていたための混乱と思われます(頁6)。