松の落葉 その36
佐賀に遊ひけるとき
344
ものゝふの | 住志昔の | あとゝへは | 水か江遠く | なくほとゝきす |
武士の | 住みし昔の | 跡訪えば | 水ヶ江遠く | 鳴くほととぎす |
注) 水か江(水ヶ江)佐賀市水ヶ江。
折 に ふ れ て
345
よの中は | みな見盡志て | 味氣なき | 味こそ志るれ | 味氣なき世は |
世の中は | 皆見尽くして | 味気なき | 味こそ知るれ | 味気なき世は |
注) 味こそ志るれ(味こそ知るれ)=味そのものこそ知りなさい。 味氣なき(あじけなき)=物事に興味が感じられずつまらない。面白みや風情がない。
346
たち歸り | 叉も此の世に | なからへむ | 和歌の浦わの | 流くみても |
立ち帰り | 叉もこの世に | 永らえん | 和歌の浦廻の | 流れ汲みても |
注) たち歸り(たちかえり)=年が改まる。新年になる。 なからへむ(永らえん)=長く生き続ける。 和歌の浦わ(和歌の浦和)=和歌浦。和歌(短歌)の浦廻とかけている(掛詞)。本歌取り。 流くみても(流れ汲みても)=その系譜や流派に連なっていても。
347
くみかはす | 酒はみやひも | へたてなき | 友のまとゐの | 面白き哉 |
酌み交わす | 酒は宮居も | 隔てなき | 友の円居の | 面白きかな |
注) みやひ(宮居)=神が鎮座すること。また、その所。 まとゐ(円居)=車座になる。団欒する。
348
都人 | まれにわたり志 | 谷川の | は志のまる木も | くちやはてなむ |
みやこびと | 稀に渡りし | 谷川の | 橋の丸木も | 朽ちや果てなん |
349
日に添て | 弱りもするか | 冬の虫の | いきてかひなき | 吾身也せは |
日に添えて | 弱りもするか | 冬の虫の | 生きて甲斐なき | 我が身なりせば |
注) 日に添て(ひにそえて)=日がたつにつれて。日ましに。 吾身也せは(わがみなりせば)=もし、自分の身であったならば。
350
三千とせの | 實はやす志 | 百年に | 三とせの春そ | はなさかりなる |
みちとせ(三千年)の | むざねは易し | ももとせ(百年)に | みとせ(三年)の春ぞ | 花盛りなる |
注) 實(むざね)=そのもの。実体。正体。