松の落葉 その35
うくひすを待つ
331
梅も咲き | はるもちかきに | 鶯の | はつ音をのみも | 猶を志むらむ |
梅も咲き | 春も近きに | うぐいすの | 初音をのみも | なお惜しむらん |
霞 は 春 の 衣
332
今朝見れは | 赤肌山の | それさへも | かすみははるの | 衣なりけり |
今朝見れば | 赤肌山の | それさえも | 霞は春の | 衣なりけり |
注) 赤肌山(あかはだやま)=山に草木がなく、地肌がすっかり出ている山。
夜 春 雨
333
春の夜は | いねよかりけり | 降雨の | ゝきの雫も | 志めやかに志て |
春の夜は | 率寐よかりけり | 降る雨の | 軒のしずくも | しめやかにして |
注) いね(率寐)=共寝をする。
春のうたの中にて
334
於な志名の | 櫻も木々に | 色かへて | 春をあらそふ | 庭そめてたき |
同じ名の | 桜も木々に | 色替えて | 春を争う | 庭ぞ目出度き |
335
たちならふ | 堤の松も | 色そへて | 千とせを庭の | ものとな志ける |
立並ぶ | 堤の松も | 色添えて | 千歳を庭の | 物となしける |
336
春の色 | いたり盡せり | 木のもとに | ものいふ花も | たち交りつゝ |
春の色 | 至り尽くせり | 木の下に | 物言う花も | 立ちかわりつつ |
337
せき入れて | たゝへ志庭の | 眞清水に | 映れる花の | 色のゝとけさ |
堰入れて | 湛えし庭の | 真清水に | 映れる花の | 色の長閑けさ |
注) せき入れて(堰入れて)=堰から水を入れて。(反対語=堰止めて)。 のとけさ(長閑けさ)=落ち着いてのんびりしているさま。
338
乙女子か | やつれ志髪も | 於も志ろ志 | かさす櫻の | 花を折るとて |
おとめごが | 窶れし髪も | 面白し | 挿頭す桜の | 花を折るとて |
注) やつれ志髪(やつれし髪)=見栄えのしないようになった髪。 かさす(かざす)=(桜の枝を)髪にさす。
339
かきりなき | 霞を春の | かきりにて | ぬれてそ花の | 色まさりける |
限りなき | 霞を春の | 限りにて | 濡れてぞ花の | 色勝りける |
340
於も志ろき | 風流かたりは | 春さめの | 春を志めたる | 花の下いほ |
面白き | 風流語りは | 春雨の | 春を占めたる | 花の下庵 |
注) 風流かたり(ふりゅうがたり)=世俗から離れて詩歌・書画など趣味の道に関わる話。
341
立ぬれて | 志ほる袂も | はるさめの | 志つくもかをる | 花さかり哉 |
立濡れて | 絞るたもとも | 春雨の | 雫も薫る | 花盛りかな |
342
ぬるゝさへ | そこはかとなき | 春雨の | 花の志つくに | 馨る袖かな |
濡れるさえ | そこはかとなき | 春雨の | 花の雫に | 馨る袖かな |
注) そこはかとなき=所在や理由がはっきりしないが全体的にそうかんじられるさま。どこがどうということではない。 馨る(かおる)=薫る・香る。
343
たちぬれて | 袖の匂ひの | うれ志きは | 花よりくるゝ | 春雨のつゆ |
立ち濡れて | 袖の匂いの | 嬉しきは | 花より呉るる | 春雨の露 |
注) たち(立ち/接頭語)=動詞に付いて、語勢を強めたり、ややあらたまった感じの意を添える。 くるゝ(呉るる)=呉れる(くれる)。貰う。
毎回、学ばせて頂いております。
誤読かも知れませんが、申し上げます。
335、提の松も→堤の松も
341、志ほる袂も→しぼる袂も
(しぼる=絞る)
343、花よりくるゝ→花より呉(カ)れる
以上のように判読致しました。
如何でしょうか。
サトウケイコ様
いつもありがとうございます。
335 おっしゃる通りでした。当方の誤記でした。
341 「絞る」でしたね。気がつきませんでした。
343 原文は「くるゝ」なのですが… どう訳したら宜しいでしょうか?
読んでいただきありがとうございます。
自分は素人なので、間違っているかもせ入れませんが、
ここでの意味は、「花が下さった良い匂いの露、」
で、如何でしょうか。
サトウケイコ様
「くるる(呉るる」は呉れるの文語型なんですね。知りませんでした。ありがとうございます。
せ入れませんが、は、
知れませんが、です。
誤記です。
これからもよろしくお願いいたします。
サトウケイコ様
こちらこそ、宜しくご指導の程、お願い申し上げます。