松の落葉 その32

        玉名郡醫師田尻宗甫か二神を祭れるに

301

於ほなむち少彦名のさき御魂さきさかふへきいへそこの家
大己貴命(おおなむち)少彦名(すくなひこな)の幸御魂(さきみたま)先榮うべき家ぞこの家

注) 二神(にしん)=陰陽の二神。ニ注の神、特にいざなぎ、いざなみの二神。 於ほなむち(おほなむち・大己貴命)=大国主の別称。 少彦名(すくなひこな)=少彦名命(すくなひこなのみこと)。日本神話の神。大国主神とともに医業・温泉・酒造の神として信仰される。 さき御魂(さきみたま・幸御魂)=人に幸福を与える神の霊魂。さきたま。

        楠    公

302

いきかはり志にかはりつゝ君の仇報ふこゝろを心には志て
生き替わり死に替わりつつ君の仇報う心を心に馳して

注) 楠公(楠正成・くすのきまさしげ)。 行き替わり、死に替わり=何度も生まれかわっていつまでも。 は志て(馳して・はして)=気持ちを遠くまで至らせて。

        李    廣

303

石にたつ矢志りをゝ志き手振には虎てふ神も跡た江志とか
石に立つ矢尻雄雄しき手振りには虎ちょう神も跡絶えしとか

注) 李廣(李広)。 をゝ志き(雄雄しき)=男らしくて勇ましい。 手振(手振り)=手の動かし方。手のしぐさ。 虎てふ神(虎ちょう神)=虎という神。

        濱  邊  松

304

波懸る濱邊の松の葉末よりまつあらはれてゆく帆かけかな
波懸かる浜辺の松のはずえより先づ現れて行く帆影かな

        嶺    松

305

さと人の教へ志まゝにたとりきぬ高根の松を枝折には志て
里人の教えしままに辿り来ぬ高根の松を枝折りにはして

注) 高根の松(たかねのまつ)=高い峰にある松。 枝折(しおり)=道しるべ。

306

こ江かねて立やすらへは松に吹く風の音すこき峯のゆふ風
越えかねて立休らえば松に吹く風の音すごき峯の夕風

注) 立やすらへは(立休らえば)=たたずめば。ためらえば。

        社    頭

307

人草はみな此の神のかけたのむめくみも志けき三輪の神杉
人種は皆この神の駆け(賭け・掛け)頼む恵みも繁き三輪の神杉

注) 社頭(しゃとう)=社殿の前。ここでは三輪の大神神社の前。 人草(ひとくさ)=人々。人民。 志けき(繁き)=回数が多い。絶え間がない。

三輪の神杉=三輪の大神神社のご神木である杉に紙垂(しで)をつけたもので、神棚の榊の代わりにお供えするもの。

        述    懐

308

よの中は成ること難志樫のみの一つ二つの於もひなれとも
世の中は成ること難し樫の実の一つ二つの思いなれども

注) 成ること=実現すること。 樫のみの(樫の実の)=樫の実は一つの殻に一つずつ入っていることから、「ひとり」「ひとつ」にかかる。

        都にのほりけるとき

309

よもすからねられぬ淀の上り舟波の志たゆく心地のみ志て
終夜寐られぬ淀の上り舟波の下行く心地のみして

注) よもすから(よもすがら・終夜)=夜どおし。一晩中。

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