松の落葉 その31

        琴

291

於も白き調や今もあり志世の弓弦つかね志かみのふること
面白きしらべや今も在りし世の弓弦束ねし佳味の古琴

注) 弓弦つかね志(ゆづる束ねし)=琴の弦を一つにまとめてしばる。 たばねる。 かみのふること(佳味の古琴)=良い趣の古い琴。

        狐

292

厚衾なほさゆる夜は志も狐まくらにちかくわひてなくなり
厚ふすま猶冴ゆる夜は霜狐(?)枕に近く侘びて鳴くなり

注) 厚衾(あつふすま)=厚い掛け布団。 なほさゆる(猶冴ゆる)=相変わらず冷え込む。 志も狐(霜狐)=白狐(白い毛皮を持つ狐)?。 わひてなくなり(侘びて鳴くなり)=淋しく思って。あれこれと思い煩って。

        望  遠  帆

293

眞帆ひきてゆくもかへるも霞よりかすみを傳ふ春のうな原
眞帆曳きて行くも帰るも霞より霞を伝う春の海原

注) 眞帆(まほ)=順風を受けて十分に張った帆。

        松 契 遐 年

294

移志うゝる軒端の松も色かへぬちとせの春を契るこゝろに
移し植うる軒端の松も色変えぬ千年の春を契る心に

注) 遐年(かねん)= 長い年月。

295

ゆくすゑの千年八千年契らま志千年のまつを友とな志つゝ
行く末のちとせやちとせ契らまし千年の松を友となしつつ

        春    祝   林田昌作七十賀

296

七十のけふを千年のは志めにてなほすゑとほき君かよの春
ななそじの今日を千年の始めにて尚末遠き君が代の春

        寄 花 懐 舊

297

春雨ははれてもはれぬたもとかなちりに志花の昔なからに
春雨は晴れても霽れぬ袂かな散りにし花の昔ながらに

注) 懐舊(かいきゅう)=昔のことを、なつかしく思い出すこと。  はれてもはれぬ(晴れても霽れぬ)=雨が降り止んでも、はればれとしない。

        新 宅 を 賀 志 て

298

動きなき千代をは志めて新志く志きかためたる宿の石すゑ
動きなき千代をば占めて新しく敷き固めたる宿の石ずえ(礎)

注) 千代(ちよ)=非常に長い年月。  石すゑ(いしずえ・礎)=立物の土台となる石。礎盤。

        六  十  賀

299

みちとせの實のりはやす志百年にみとせのはるそ花盛なり
三千年の実りは易しももとせに三年の春ぞ花盛りなり

300

ゆく末はまたはるかなり千年山六十を千代の初めには志て
行く末はまだ遙かなりちとせ山むそじを千代の初めにはして

注) 千年山(ちとせやま)=松の生えている山をいう(千歳山)。

松の落葉 その31” に対して3件のコメントがあります。

  1. サトウケイコ より:

    拝見いたしました。
    292、詫びて鳴くなり→侘びて鳴くなり
    296、しちじゅうの→ななそじの
    298、千代を初めて→千代をば占めて
       (占める、占有する、ことでしょうか。)

    以上のように読ませて頂きました。
    如何でしょうか。
    誤読は、ご指摘くださいませ。

    1. sokei より:

      サトウケイコ様
      コメントありがとうございました。
      全て納得です。

  2. サトウケイコ より:

    ご確認、ありがとうございます。

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