松の落葉 その27

        見  増  戀

251

みるたひに深くなりゆく思ひ川渡りもはてす身をや沈めむ
見る度に深くなりゆく思川渡りも果てず身をや沈めん

注) 思ひ川(おもいがわ)=思いが深く絶える間もないことを、川の流れにたとえていう語。

252

たまさかに見るに心は慰さまで思のみこそいやまさりけり
偶さかに見るに心は慰まで思いのみこそ弥勝りけり

注) たまさかに=思いがけない事が起こるさま。 慰さまで=心を楽しませないで。気晴らしで。 いや(弥)=事柄や状態がだんだんはなはだしくなるさまを表す。

        月  前  戀

253

なれ志夜のその於もかけやわか袖の涙とめきてやとる月影
馴れし夜のその面影や我が袖の涙留め来て宿る月影

254

うき人の俤はかりつもりきぬ月はその夜のかたみならねと
憂き人のおもかげばかり積もり来ぬ月はその夜の形見ならねど

注) うき人(憂き人)=恋い慕っているのに、そ知らぬ顔でいるひと。 かたみ(形見)=過ぎ去ったことの思い出となる物。

        逢    戀

255

けさはまた猶長かれと祈るかな逢ひ見るまての命なれとも
今朝は未だ猶長かれと祈るかな逢い見るまでの命なれども

注) また(未だ)=依然として。

256

流れては浮名やたゝむ嬉志さをつゝみ餘れる袖のなみたも
流れては浮名や立たむ嬉しさを包み余れる袖の涙も

257

さ志むかひ思へはうれ志高瀬川みなれそめに志春のよの月
差し向かい思えば嬉し高瀬川見慣れ初めにし春の夜の月

注) 高瀬川

        難    忘

258

わすれむと於もふ心そうき人を江もわすられぬ心なりけり
忘れんと思う心ぞ憂き人をえも忘られぬ心なりけり

注) 江もわすられぬ(えも忘られぬ)=どうにも忘れることができない。

259

忘らるゝひまこそなけれうきにつけ嬉志きにつけ戀ふ心は
忘られる暇こそなけれ憂きにつけ嬉しきにつけ恋う(したう)心は

松の落葉 その27” に対して4件のコメントがあります。

  1. サトウケイコ より:

    拝見いたしました。
    254、月はその夜の 形見 ならねど
    256、流れては浮き名や 立 たむ

    以上のように読んでは、如何でしょうか。
    誤読は、お許しくださいませ。

    1. 高見洋三 より:

      サトウケイコ様
      コメントありがとうございました。
      254 「形見」には、「過ぎ去ったことの思い出のとなる物」という意味があるようですね。ぴったり合いますね。訂正させて頂きます。
      256 小生は、どうも難しく考えてしまう性癖があるようです。作者は、浮き名が立って良しと言う立場のようですね。これも、訂正させて頂きます。

  2. サトウケイコ より:

    拝見いたしました。
    257 
    みなれそめに志→見慣れ初めにし

    と、読んでみました。
    如何でしょうか。
    誤読は、ご指摘くださいませ。

    1. sokei より:

      ありがとうございました。ご指摘の通りだと思います。「乱れそめにし わらならなくに」が邪魔をしたようです。

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