松の落葉 その26

        聞    戀

241

落瀧つ音羽のたきの音にのみありときゝつゝ戀わたれとや
落ち瀧つ音羽の滝の音にのみありと聞きつつ恋い渡れとや

注) 落瀧つ(おちたきつ)=湧き返って流れ落ちる滝。枕言葉。 音羽のたき(音羽の滝)。 戀わたれ(恋渡れ)=恋い慕い続けなさい。

242

なにゆゑに袖にかけゝむ人つてにみぬ面影を菊の上のつゆ
何故に袖に掛けけん人づて(人伝)に見ぬ面影を菊の上(え)の露

注) 菊の上のつゆ(菊の上の露)=菊の上に置いた露。菊にやどる露。これを飲むと長寿を保つとされた。

        疑    戀

243

弱竹の靡くと見江て末葉にはまこと志からぬ節もま志れり
なよ竹のなびくと見えて末葉(すえば)には真しからぬ節も増しれり

注) 末葉(すえば)=草木の先端にある葉。 まこと志からぬ(まことしからぬ)=本当でない。 (ふし)=箇所。注目すべき点。掛詞。

244

うちとけ志言の葉なから頼れすうらふき返す風もこそあれ
打ち解けし言の葉ながら頼られず裏(浦)吹き返す風もこそあれ

        乍 臥 無 實 戀

245

さ志かはす袖の契は名のみにて夢もゆるさぬ志たひもの關
差し交わす袖の契りは名のみにて夢も許さぬ下紐の関

注) 志たひもの關(下紐の関)=下紐(装束の下、小袖の上に結ぶ帯)をさえぎり止めること。

        寄  淵  戀

246

そこひなき思ひつもりてせく袖の涙のすゑや淵となるらむ
底方(そこい)なき思い積もりて塞く袖の涙の末や淵となるらん

注) そこひなき(底方なき)=限りない。 せく(塞く)=男女の仲を隔てて遠ざける。

        後 朝 切 戀

247

別路の是やかたみの袖の露ひるますくへきいのちならねば
別れ路の是や形見の袖の露乾る間剥くべき命ならねば

注) ひるますくへき(乾る間剥くべき)=乾く間になくなるようにする。

248

たちかへり於な志心にたとるかな思ひ死すへき今朝の別路
立ち返り同じ心に辿るかな思い死すべき今朝の別れ路

注) たちかへり(立ち返り)=繰り返す。

        祈    戀

249

つき日のみ空く過きて三輪の山祈る効志もなき身なりけり
月日のみむなしく過ぎて三輪の山祈る効しも無き身なりけり

注) 三輪の山三輪山)。 祈る効(いのるかい)=祈る行為に値するだけの値打ちや効果。

250

人も見よ祈る志る志は貴船川なみに志をるゝ袖のけ志きを
人も見よ祈る印は貴船川波に萎れる袖の気色を

注) 貴船川(きふねがわ)=京都市左京区の貴船神社付近を流れ、鞍馬川に合流する川。歌枕。 なみに志をるゝ(波に萎れる)=濡れる。 け志き(気色)=自然のたたずまい。 参考:「幾夜我、波にしをれて、貴船川、袖に玉ちる、物思ふらむ/新古今和歌集(恋二)」

松の落葉 その26” に対して2件のコメントがあります。

  1. サトウケイコ より:

    お尋ねいたします。
    247、袖の露 ひ(乾・干)るま すくへき

    と、読めないでしょうか。

    1. 高見洋三 より:

      サトウケイコ様
      コメントありがとうございました。ご指摘の通りだと思います。小生は、和歌は苦手で、苦肉の解釈をしてしまいました。訂正させて頂きます。今後共宜しく御指導お願いします。

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