松の落葉 その23
落 葉 混 雨
211
さたかには | きゝ分ねとも | 小夜時雨 | 半は木ゝの | 落葉なりけり |
定かには | 聞き分けねども | 小夜時雨 | 半ばは木々の | 落ち葉なりけり |
212
そてぬるゝ | 木葉は時雨 | 志くれする | 音は木葉の | 落るなりけり |
袖濡るる | 木葉は時雨 | 時雨する | 音は木葉の | 落ちるなりけり |
松 の 落 葉
戀 歌
寄 月 戀
213
うき人の | 俤みゆる | 春のつき | 於ほろけならぬ | もの於もへとや |
憂き人の | おもかげ見ゆる | 春の月 | 朧げならぬ | 物思へとや |
注) うき人(憂き人の)=恋い慕っているのに、そしらぬ顔でいる人。つれないひと。 俤((おもかげ)=面影。 於ほろけ(朧げ)=はっきりしないさま。
214
さ志むかひ | 於もへは袖に | 移りきぬ | なれ志その夜の | 有明の月 |
差し向かい | 思えば袖に | 移り来ぬ | 慣れしその夜の | 有明の月 |
深 夜 待 戀
215
さりともと | 頼む鳥かね | 鐘の於と | 待つよ空志き | 物と志る/\ |
然りともと | 頼む鳥が音 | 鐘の音 | 待つ夜空しき | 物と知る知る |
注) さりとも(然りとも)=そうであっても。それでも。いくらなんでも。よもや。まさか。 志る/\(知る知る)=知りつつ。知りながら。
寄 竹 戀
216
試に | いひもよらなむ | なよ竹の | なひき寄るへき | 節もこそあれ |
試みに | 言いも寄らなむ | 弱竹の | なびき寄るべき | 節もこそあれ |
注) なよ竹(弱竹)=細くてしなやかな竹。女竹。 節(ふし)=竹の節。心のとまるところ。・・・と思われる点。二つの意味を持つ掛詞。
不 逢 戀
217
さりともと | 猶なからふる | 月日かな | あはぬや戀の | 命なるらむ |
然りともと | 猶長らふる | 月日かな | 逢わぬや恋の | 命なるらん |
注) なからふる(長らふる)=ずうっと続く。長続きする。
218
うつゝには | よ志つらくとも | うは玉の | 夢路はゆるせ | 逢坂の關 |
現には | 縦しつらくとも | 烏羽玉の | 夢路は許せ | 逢坂の関 |
注) よ志(縦し・よし)=たとえ。かりに。万一。 うは玉の(うばたまの・烏羽玉の)=「闇」「夜」「夢」にかかる。
219
逢と見志 | 夢は跡なく | 春のよの | かひなきもとの | 身社つらけれ |
逢うと見し | 夢は跡無く | 春の夜の | 甲斐なきもとの | 見しや辛けれ |
注) 身社つらけれ(??辛けれ)=身社の意味が不明です。誤植ではないかと思われます(みしやつらけり=見しや辛けれ)。
220
木葉せく | 岩間の水よ | なからへは | つひに逢瀬の | 無らま志やは |
木の葉堰く | 岩間の水よ | 長らえば | 終に逢瀬の | 無くらましやは |
注) 無らま志やは(無くらましやは)=(逢うチャンスが)無くなってしまえば良いのだろうか。いや決してそうではない。
いやー、艶なる歌の数々、有難うございます。
「身社つらけれ」は確かに分かりにくいですね。
「親炙」というのはちょっと硬いかと思いますが、かといって…・
まったく自信ありませんが、ひょっとして「見しや」ではないかと。
「逢と見志」で見を使ったので重複を避けて「身」にしたのではないかとも考えられます。
「甲斐なきもとの」と分かってしまうと、まあ何と辛いことか。
武田智孝様
コメントありがとうございました。
「見しや」が正しいように思えてきました。その理由として、「身」は、「み」の変体仮名に使われていること、「社」は、「しや」の誤植と思えます。歌の流れからも、分かりやすいですよね。
「社」は今では「しゃ」ですが、古文には小さい「つ・や・ゆ・よ」がないので「しや」と表記したらしいです。ですからたぶん誤植ではないのでは。