松の落葉 その22
時 雨 過 易
201
はれにけり | 曇にけりと | いふまさへ | なほ定めなく | ふる時雨哉 |
晴れにけり | 曇りにけりと | 言う間さえ | 尚定めなく | 降る時雨かな |
河 落 葉
202
雨とのみ | 川瀬の水に | 音たてゝ | ふれるは岸の | もみちなりけり |
雨とのみ | 川瀬の水に | 音たてて | 降れるは岸の | 黄葉(紅葉)なりけり |
注) 雨とのみ・・・ふれる=雨とばかりに降る。
203
山姫の | 心も志らて | さそふ水 | たかあきはて志 | もみちなるらむ |
山姫の | 心も知らで | 誘う水 | 誰が飽き果てし | 紅葉なるらん |
注) 山姫(やまひめ)=山を守り治める女神。アケビの異名。
204
いつかたに | ゆきてたゝかむ | 厚氷 | けさは結はぬ | 山の井もな志 |
何方に | 行きて唯噛む | 厚氷 | 今朝は結ばぬ | 山の井もなし |
205
志たくゝる | 岩間の水の | 音は志て | 結ひそめたる | 今朝の薄らひ |
下潜る | 岩間の水の | 音はして | 結び初めたる | 今朝の薄ら氷 |
注) 薄らひ(薄ら氷)=薄氷。
松 霜
206
すさま志く | 霜の上ふく | 朝風に | 松の葉志ろく | うちけふりつゝ |
すさまじく | 霜の上吹く | 朝風に | 松の葉白く | 打ち煙りつつ |
注) うちけふりつゝ(打ち煙りつつ)=薄くかすんで見える。
207
枝寒き | ふせやの軒の | 松の葉に | 於きところなく | 結ふ志もかな |
枝寒き | 伏せ屋の軒の | 松の葉に | 置き所なく | 結ぶ霜かな |
注)ふせや(伏せ屋)=低い小さな家。粗末な家。みすぼらしい家。
竹 霜
208
とり/\に | あはれを見せて | 笹のはの | 青葉さやかに | 結ふ朝霜 |
鳥捕りに | 哀れを見せて | 笹の葉(端)の | 青葉明かに | 結ぶ朝霜 |
注) とり/\(鳥捕り)=鳥をとる人。 さやか(明か・清か)=はっきりしているさま。明るいさま。
209
けさことに | 窓の呉竹 | ふく風の | さやくは霜の | ひゝきなるらむ |
今朝ことに | 窓の呉竹 | 吹く風の | さやぐは霜の | 響きなるらん |
注) 呉竹(くれたけ)=中国の呉から渡来した竹。真竹の別称。 さやく(さやぐ)=さやさやと音を立てる。さわぐ。
あ そ に て
210
夜もすから | 寝られぬあその | 萱筵 | 霜の枯野を | 敷くこゝ地志て |
終夜 | 寐られぬ阿蘇の | かやむしろ | 霜の枯野を | 敷く心地して |
注) 夜もすから(よもすがら・終夜)=夜通し。一晩中。 萱筵(かやむしろ)=カヤで作ったむしろ。