松の落葉 その21

        あその浪野にて

191

こきめくるあまの小舟の跡もな志波野のはらの秋のよの月
漕ぎ廻る海女の小舟の跡もなし波野の原の秋の夜の月

注) 浪野(なみの)=阿蘇市波野

       秋    水

192

八束穂のたりほゆたかにせく水の餘れる秋の色そたの志き
八束穂の垂り穂豊かに急く水の余れる秋の色ぞ楽しき

注) 八束穂(やつかほ)=長い穂。 たりほ(垂り穂)=実って垂れている、稲や麦などの穂。

  松 の 落 葉

      冬  歌

        千   鳥

193

ゆふ月のまた影くらき芦まより友まとは志て千鳥なくなり
夕月の未だ影暗き芦間より友纏わして千鳥鳴くなり

注) 友まとは志て(友纏わして)=千鳥の仲間に付き纏って。  千鳥

194

霜かれの芦間やはやくこほるらむなく音わひ志き夕千鳥哉
霜枯れの芦間や早くこぼるらん鳴く音侘しき夕千鳥かな

注) 霜かれ(霜枯れ)=霜のために草木が枯れしぼむこと。霜枯れ時。

        江  寒  芦

195

難波江のあ志の枯葉に吹く風をいつ志か春の夢になさはや
難波江の芦の枯れ葉に吹く風をいつしか春の夢になさばや

注) 夢になさはや=夢にしたいものだ。

196

うら若き玉江のあ志の霜かれて翁さひても見ゆるふゆかな
うら若き玉江の芦の霜枯れて翁障いても見ゆる冬かな

注) うら若き=草木の枝先や葉が、青々としてみずみずしい。 玉江(たまえ)=大坂中之島(肥後藩の蔵屋敷があった)。 翁さふ=翁障う。 

        枯  野  風

197

いまはめにとまる色さへなかりけり尾花か末の冬の夕くれ
今は目に留まる色さえなかりけり尾花が末の冬の夕暮れ

注) 尾花(おばな)=ススキの花穂。 末の冬(すえの冬)=冬の終わり頃。

198

風さゆる霜の枯野はひと夜ね志於もかけもなき草のいろ哉
風冴ゆる霜の枯野は一夜寝し面影もなき草の色かな

       初 冬 時 雨

199

木枯の音にはきゝ志冬のいろをめにみ江そめてふる時雨哉
木枯らしの音には聞きし冬の色を目に見え初(染)めて降る時雨かな

注) 時雨(しぐれ)=初冬の頃、一時、風が強まり、急にパラパラと降っては止み、数時間で通り過ぎ行く雨。

        落 葉 随 風

200

吹風に枝をはなれてなか空をなほ時雨ゆくきゝのもみち葉
吹く風に枝を離れて中空をなお時雨行く木々の紅葉(黄葉)葉

注) なか空(中ぞら)=空の中ほど。中天。途中。心の落ち着かぬさま。中途半端なさま。いい加減なさま。

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