松の落葉 その21
あその浪野にて
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こきめくる | あまの小舟の | 跡もな志 | 波野のはらの | 秋のよの月 |
漕ぎ廻る | 海女の小舟の | 跡もなし | 波野の原の | 秋の夜の月 |
注) 浪野(なみの)=阿蘇市波野。
秋 水
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八束穂の | たりほゆたかに | せく水の | 餘れる秋の | 色そたの志き |
八束穂の | 垂り穂豊かに | 急く水の | 余れる秋の | 色ぞ楽しき |
注) 八束穂(やつかほ)=長い穂。 たりほ(垂り穂)=実って垂れている、稲や麦などの穂。
松 の 落 葉
冬 歌
千 鳥
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ゆふ月の | また影くらき | 芦まより | 友まとは志て | 千鳥なくなり |
夕月の | 未だ影暗き | 芦間より | 友纏わして | 千鳥鳴くなり |
注) 友まとは志て(友纏わして)=千鳥の仲間に付き纏って。 千鳥。
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霜かれの | 芦間やはやく | こほるらむ | なく音わひ志き | 夕千鳥哉 |
霜枯れの | 芦間や早く | こぼるらん | 鳴く音侘しき | 夕千鳥かな |
注) 霜かれ(霜枯れ)=霜のために草木が枯れしぼむこと。霜枯れ時。
江 寒 芦
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難波江の | あ志の枯葉に | 吹く風を | いつ志か春の | 夢になさはや |
難波江の | 芦の枯れ葉に | 吹く風を | いつしか春の | 夢になさばや |
注) 夢になさはや=夢にしたいものだ。
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うら若き | 玉江のあ志の | 霜かれて | 翁さひても | 見ゆるふゆかな |
うら若き | 玉江の芦の | 霜枯れて | 翁障いても | 見ゆる冬かな |
注) うら若き=草木の枝先や葉が、青々としてみずみずしい。 玉江(たまえ)=大坂中之島(肥後藩の蔵屋敷があった)。 翁さふ=翁障う。
枯 野 風
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いまはめに | とまる色さへ | なかりけり | 尾花か末の | 冬の夕くれ |
今は目に | 留まる色さえ | なかりけり | 尾花が末の | 冬の夕暮れ |
注) 尾花(おばな)=ススキの花穂。 末の冬(すえの冬)=冬の終わり頃。
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風さゆる | 霜の枯野は | ひと夜ね志 | 於もかけもなき | 草のいろ哉 |
風冴ゆる | 霜の枯野は | 一夜寝し | 面影もなき | 草の色かな |
初 冬 時 雨
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木枯の | 音にはきゝ志 | 冬のいろを | めにみ江そめて | ふる時雨哉 |
木枯らしの | 音には聞きし | 冬の色を | 目に見え初(染)めて | 降る時雨かな |
注) 時雨(しぐれ)=初冬の頃、一時、風が強まり、急にパラパラと降っては止み、数時間で通り過ぎ行く雨。
落 葉 随 風
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吹風に | 枝をはなれて | なか空を | なほ時雨ゆく | きゝのもみち葉 |
吹く風に | 枝を離れて | 中空を | なお時雨行く | 木々の紅葉(黄葉)葉 |
注) なか空(中ぞら)=空の中ほど。中天。途中。心の落ち着かぬさま。中途半端なさま。いい加減なさま。