松の落葉 その18
松 の 落 葉
秋 歌
秋 露
162
なにとなく | 草葉よりまつ | 於きそめて | 袖になれゆく | 秋乃白露 |
何と無く | 草葉よりまづ | 置き初めて | 袖に慣れゆく | 秋の白露 |
閑 居 簿
163
いまはとて | のかれはてたる | 世の塵を | 拂ひすてたる | 庭の小薄 |
今はとて | 遁れ果てたる | 世の塵を | 払い捨てたる | 庭の小すすき |
注) 世の塵(よのちり)= 世の中のわずらわしい雑事。 小薄(こすすき)=糸薄(いとすすき)の異名。
164
草の菴は | とふひともな志 | 花すゝき | まねく心に | まかせはてゝも |
草の庵は | 訪う人もなし | 花薄 | 招く心に | 任せ果てても |
注) 草の菴(くさのいお・草の庵)=草ぶきの粗末な住まい。俗世を避けて住む人の住まい。草庵。 花すゝき(花薄)。
霧
165
夕露の | それさへまたて | 秋霧の | 志つくそ袖を | まつぬら志つる |
夕露の | それさえ待たで | 秋霧の | 雫ぞ袖を | まづ濡らしつる |
草 花 早
166
桐の葉も | また於ちあへぬ | 秋の色を | まづ見せそむる | 朝顔の花 |
桐の葉も | 未だ落ち合えぬ | 秋の色を | まづ見せ初むる | 朝顔の花 |
菊 半 開
167
いまよりの | 秋の日かすも | 未遠志 | 花もなかはの | 庭の志らきく |
今よりの | 秋の日数も | まだ遠し | 花も半ばの | 庭の白菊 |
聞 雁
168
照るつきに | 翅ならへて | なく雁は | たか玉琴の | ねにひかれけむ |
照る月に | つばさ並べて | 啼く雁は | 誰が玉琴の | 音に惹かれけむ |
注) 玉琴(たまごと)=玉で飾った琴。また、琴の美称。
夜 聞 荻
169
ひとり寝の | 枕さひ志く | ふけにけり | 軒はの荻の | 音はかり志て |
独り寝の | 枕淋しく | 更けにけり | 軒端の荻の | 音ばかりして |
注) 軒はの荻(軒端の荻)。