松の落葉 その16
簾に葵かけたる家あり
140
祈れたゝ | 二葉にかけて | いよ簾 | かみと君との | 御代にあふひを |
祈れ唯 | 二葉に掛けて | 伊予簾 | 神と君との | 御代に逢う日を |
注) 二葉(ふたば)=二葉葵。 いよ簾(伊予簾)=伊予国上浮穴郡に産する細かくて長い篠で編んだすだれ(いよす)。
141
かけ渡す | 簾を見ても | 君が代に | たれもあふひの | かけ頼むらむ |
架け渡す | 簾を見ても | 君が代に | 誰も会う日の | 影(?)頼むらん |
夏 月 映 泉
142
夏のよは | ほとなき庭の | 泉にも | よもすから月の | 影やとすなり |
夏の夜は | 程なき庭の | 泉にも | 夜もすがら月の | 影宿すなり |
注) ほとなき庭(程なき庭)=狭い庭。 よもすから(夜もすがら)=終夜。夜どおし。
水 鶏 驚 夢
143
み志夢は | 跡なく覺めて | 柴の戸を | たゝく水鶏の | こゑそ殘れる |
見し夢は | 跡なく覺めて | 柴の戸を | たたくくいなの | 声ぞ残れる |
注) 柴の戸(しばのと)=柴を編んで作った粗末な戸。 水鶏(くいな)=ツル目クイナ科の鳥の総称。鳴き声を「叩く」と表現した場合は、夏鳥のヒクイナ。
144
たち歸り | いかに水鶏の | 敲くとも | 浮世の夢は | さめすやある覽 |
立帰り | 如何に水鶏の | 敲くとも | 浮世の夢は | 覚めずやあるらん |
注) たち歸り(立帰り)=同じ事を何度もして。 さめすやある覽(覚めずやあるらん)=覚めないことがあるだろうか。
澤 螢
145
風さそふ | 澤邊の草の | 夕露に | みたれあひても | とふほたるかな |
風誘う | 沢辺の草の | 夕露に | 乱れ合いても | 飛ぶ螢かな |
146
ほたるとふ | 淺澤水は | 浅けれど | 深き於もひや | 身をこかすらむ |
螢飛ぶ | 淺沢水は | 浅けれど | 深き思いや | 身を焦がすらん |
注) 身をこかす(身を焦がす)=恋慕の情が抑えられず、もだえ苦しむ。
147
夕まくれ | 澤べのあ志に | 於く露の | こほれて飛ふは | 螢なりけり |
夕間暮れ | 沢辺の芦に | 置く露の | こぼれて飛ぶは | 螢なりけり |
148
陰くらき | 澤邊のあ志の | 下葉より | まつあらはれて | 飛ぶ螢かな |
陰暗き | 沢辺の芦の | 下葉より | 先づ現れて | 飛ぶ螢かな |
149
なつ艸の | 繁き方より | 見江そめて | 澤邊涼志く | とふほたるかな |
夏草の | しげき方より | 見江初めて | 沢辺涼しく | 飛ぶ螢かな |
注) 艸(くさ)=草。 繁き方(しげきかた)=密に生い茂っている方角。
繫き方(しげきかた)は、 繁き方(しげきかた)の、誤記では?
サトウケイコ様
コメントありがとうございます。
ご質問の内容が、よく理解できないのですが、
失礼いたしました。
149
の、釈文
なつ艸の 繫き方より 見江そめて 澤邊涼志く とふほたるかな
の、繫き方は、繁(しげ)き方、が、正しいかと存じます。
漢字一文字の違いについて、申し上げました。
夏草が繁茂していることを、述べていると思います。
佐藤景子様
ありがとうございました。どうも同じようなミスを犯してすみません。訂正しておきます。
お返事ありがとうございます。