松の落葉 その15
馴 花
132
ゆふ月夜 | かすむあ志たも | なれ/\て | 花に盡さむ | 春の日数を |
夕月夜 | 霞む朝も | 慣れ慣れて | 花に尽くさん | 春の日数を |
注) 夕月夜。 あ志た(あした)=朝。
待 花
133
われ人に | またせ/\て | さくら花 | さかぬほとさへ | 永き春かな |
我人に | 待たせ待たせて | 桜花 | 咲かぬ程さえ | 永き春かな |
134
まつほとの | 花の俤 | つれなさを | ふくめる色も | にくからねとも |
待つ程の | 花のおもかげ | つれなさを | 含める色も | 憎からねども |
注) 俤=おもかげ。 つれなさ=人の気持ちを思いやろうとしない。
松 の 落 葉
夏 歌
待 時 鳥
135
ほとゝきす | まつこの頃は | 夏衣 | 重ねてよをも | ふか志つるかな |
ほととぎす | 待つこの頃は | 夏衣 | 重ねて夜をも | 更かしつるかな |
注) ホトトギス。
郭 公 遍
136
ほとゝきす | 聲の盛に | なりにけり | 待夜むな志き | 里もなきまて |
ほととぎす | 声の盛りに | なりにけり | 待つ夜空しき | 里も無きまで |
遅 櫻
137
ほとゝきす | 尋ねわひたる | たにかけを | 春にかへせる | 遅櫻哉 |
ほととぎす | 尋ね侘びたる | 谷陰を | 春に返せる | 遅桜かな |
葵
138
葵くさ | かけてそいのる | 世の中を | むか志にかへせ | 賀茂の川水 |
葵草 | 掛けてぞ祈る | 世の中を | 昔に返せ | 賀茂の川水 |
注) 葵くさ(葵草)=フタバアオイの異名。 かけてそいのる(掛けてぞ祈る)=心にかけて祈る。本気で祈る。
139
葵草 | けふかけそへて | 玉かつら | なかき契りを | なほやたのまむ |
葵草 | 今日掛け添えて | 玉鬘 | 永き契りを | 尚や頼まん |
注) 玉かつら(玉鬘)=多くの宝玉を緖で連ねて頭に飾る。