松の落葉 その13
折 花
112
さくら花 | 見せはやひとに | 永き日も | あかぬ心を | 折かさ志つゝ |
桜花 | 見せばや人に | 永き日も | 飽かぬ心を | 折挿頭しつつ |
注) 見せはや(見せばや)=見せたいものだ。 折かさ志つゝ(折挿頭しつつ)=花などを折って頭髪の飾りとする。
雨 後 花
113
のとかにも | はれにけるかな | 春雨の | 名残は花の | つゆに残志て |
のどかにも | 晴れにけるかな | 春雨の | なごりは花の | 露に残して |
注) 名残(なごり)=物事の最後。終わり。
曙 花
114
あけほのゝ | 空はかすみて | 花にのみ | 有明の月の | いろそ殘れる |
曙の | 空は霞みて | 花にのみ | 有明の月の | 色ぞ残れる |
注) 曙。
花 下 忘 歸
115
歸るへき | 日影わすれて | 花のもと | またぬ月ふむ | 路となりにき |
帰るべき | 日影忘れて | 花の許 | 待たぬ月履む | 路となりにき |
注) 日影=昼間の時間。 月ふむ(月履む)=月を見てしまった。
野 花 留 人
116
かりそめに | 結ふもをか志 | 草まくら | 末野の櫻 | さかりなるころ |
仮初めに | 結ぶもをかし | 草枕 | 末野の桜 | 盛りなるころ |
注) かりそめに=その場限りであること。さして重要でないこと。 をか志(をかし)=趣がある・興味がひかれる。 草まくら(草枕)=旅。旅寝。
古 寺 花
117
さき散るも | 花にまかせて | すむ人は | いつ志かた江て | 峰の古寺 |
咲き散るも | 花に任せて | 住む人は | 何時しか絶えて | 峰の古寺 |
月 前 落 花
118
月もなほ | 花の名殘を | ゝ志みてや | ちりゆく花に | 影やとすらむ |
月も尚 | 花の名殘を | 惜しみてや | 散りゆく花に | 影宿すらん |
山 家 花
119
山里も | 静こゝろなく | くらせるは | はなの盛りの | 日數なりけり |
山里も | 静心無く | 暮らせるは | 花の盛りの | 日数なりけり |
注) 静こゝろなく(静心無く)=心が静かでない。気持ちが落ち着かない。 日數(ひかず)=経過した日の数。
花 下 逢 友
120
咲く花の | 木かけを志めて | まとゐせむ | 志るも知らぬも | 同志莚に |
咲く花の | 木陰を占めて | 団居せん | 知るも知らぬも | 同じ筵に |
注) まとゐ(団居・円居)=車座になる。団欒する。 筵(むしろ)=わらなどで編んで作った敷物(ござ)。
115の「花のもと」は「花の許」より「花の下」のほうがいいのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。
武田智孝様
コメントありがとうございます。
辞書によると、「下」と「許」は同義語として扱われていますが、ここでは「近くで」というニュアンスで、捉えて「許」を採用させて頂きました。