松の落葉 その12

        山 路 尋 花

101

わけ來つる山路や遠くなりぬらむうきよはなれ志花の色哉
分け来つる山路や遠く成りぬらん浮世離れし花の色かな

102

踏なれぬ岩根松かね咲花のそれゆゑにこそたとり來にけり
踏み慣れぬ岩根松が根咲く花のそれ故にこそ辿り来にけり

注) 岩根松かね(岩根松が根)=岩の根元や松の根子。

103

ま志らのみなれて木傳ふ深山路の花にそ人の跡はありけり
ましらのみ慣れて木伝う深山路の花にぞ人の跡はありけり

注) ま志ら(ましら)=猿の別名。

        花 下 送 日

104

よの中の歎きも志らてさく花に春の日かすを盡志つるかな
世の中の歎きも知らで咲く花に春の日数を尽くしつるかな

105

於もほ江す日かすへにけり櫻花さき散る程の旅ねなれとも
思ほえず日数経にけり桜花咲き散るほどの旅寝なれども

注) 於もほ江す(思ほえず)=思いがけなく。

106

假ね志て幾日見つらむやま櫻くさひき結ふほとはなけれと
仮寝して幾日見つらむ山桜草引き結ぶ程はなけれど

注) 見つらむ=見たであろう。 くさひき結ふ(草引き結ぶ)=草を引き寄せて結ぶ。

        春    旅

107

とまるへき宿の枝折もさくらにて春のたひ路の於も白き哉
泊まるべき宿のしおりも桜にて春の旅路の面白きかな

注) 宿の枝折(やどのしをり)=宿泊地についての簡単な手引き書。

108

於もふほと花見てゆかむ朧よの月於も志ろきはるの旅路は
思うほど花見て行かん朧夜の月面白き春の旅路は

注) 朧夜

109

たちとまり/\見志花ゆゑに月ふむみちとなれるたひかな
立ち止まり立ち止まり見し花故に月履む路と成れる旅かな

注) 月ふむみち(月履む路)=月明かりになってしまった路。

110

さもあらはあれ急ぬ旅路けふも又行手の花に日は暮るとも
さもあらばあれ急(せ)かぬ旅今日も又行く手の花に日は暮れるとも

111

永き日もなほゆきくれて花鳥のいろ音のとけき春の旅路は
永き日も尚行き暮れて花鳥の色音のどけき春の旅路は

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