松の落葉 その11
早 春
091
なにとなく | 花になりゆく | 袂かな | 春めきそむる | 人のこゝろに |
何となく | 花になりゆく | 袂かな | 春めき初むる | 人の心に |
092
きのふけふ | 雪けなかるゝ | 谷川の | 水さへはるは | 花と見江つゝ |
昨日今日 | 雪解流るる | 谷川の | 水冴え張る(墾る/春)は | 花と見えつつ |
花の下を車に乗りてゆく人あり
093
このもとに | わたちならへて | 休ふは | 花にひかれ志 | 車なるらん |
この許に | 轍並べて | 休らうは | 花に惹かれし | 車なるらん |
注) 轍(わだち)。
浦 春 月
094
さても猶 | 於ほろなるらむ | 紀の國の | 吹上のうらの | 春の夜のつき |
扨も猶 | 朧なるらん | 紀ノ國の | 吹上の浦の | 春の夜の月 |
注) 吹上のうら(和歌の浦)。
095
淡路志ま | あはとも見江す | 津の國の | なにはの浦の | 朧夜のつき |
淡路島 | 淡とも見えず | 津の国の | 難波の浦の | 朧夜の月 |
注) 津の國のなにはの浦=摂津の国の難波の浦。
夜 花
096
心志る | 人もとはなむ | 小簾の外も | かせ静なる | つきの夜さくら |
心知る | 人も訪はなん | 小簾の外も | 風静かなる | 月の夜桜 |
注) 小簾の外も(をすのとも)=小さなすだれの外も。 小簾(をす)。
097
いさゝらは | こよいもこゝに | あか志てむ | 飽ぬ心を | 花に宿志て |
いざさらば | 今宵もここに | 明かしてむ | 飽きぬ心を | 花に宿して |
浪速の櫻の宮にて
098
ちる花と | くるゝ日かけを | なには川 | せきとゝむへき | 棚もかな |
散る花と | 暮るる日影を | 難波川 | 堰止むべき | 棚もかな |
注) 棚(かけはし)=水上にかけ渡した橋。
野村督學と學校巡視する道にて
099
ちると見て | 散ぬさくらの | ひとひらは | 蝶の眼の | 覺志なりけり |
散ると見て | 散らぬ桜の | 一片は | 蝶のまなこの | 覚しなりけり |
注) 野村督學=野村校長(野村素介)。
天草の舟路にて
100
覺つかな | 春の舟人 | さ志てゆく | かすみやけふの | 泊りなるらむ |
覚束な | 春の舟人 | 指して行く | 霞や今日の | 泊まりなるらん |
093の「休ふは」は「やすらう(休らう)」ではないでしょうか。
096の「人もとはなむ」は「人も訪わなん」の方がいいかと思うのですが、いかがでしょうか。
武田智孝様 コメントありがとうございました。
093 ご指摘の通りですね。
096 これも、おかしいですね。
いづれも訂正しておきます。
このようなズサンな解釈が多数出てくると思われますので、今後共、宜しくご指導下さい。