松の落葉 その8
閑 庭 梅
061
猶さらに | 薫もきよ志 | 世の塵の | けかさぬ庭の | よるの梅かゝ |
なおさらに | 薫りも清し | 世の塵の | 汚さぬ庭の | 夜の梅が香 |
小竹園の屏風の繪に梅の花畫きたる
062
さく梅も | 常磐堅盤の | 宿なれは | 散ということは | 志らすや有覽 |
咲く梅も | 常磐堅磐の | 宿なれば | 散ると言うことば | 知らずやあるらん |
注) 常磐堅盤(ときわかきわ)=物事が永久不変であること。
063
園の竹 | 軒はの梅よ | 君か經む | ちとせの春の | いろそへなゝむ |
園の竹 | 軒端の梅よ | 君が経ん | 千年の春の | 色添えななん |
梅 混 雪
064
思へとも | 何れをそれと | 分かねつ | ちりかゝる梅 | 降りつもる雪 |
思えども | いずれをそれと | 分きかねつ | 散りかかる梅 | 降り積もる雪 |
注) 分かねつ(わきかねつ)=分別できない。
065
夕暮の | 窓於も志ろく | ふるは梅 | さくは深雪の | つもるなりける |
夕暮れの | 窓面白く | 降るは梅 | 咲くは深雪の | 積もるなりける |
山 春 月
066
あそのねの | み雪やまたき | 残るらむ | 猶さ江のほる | 春の夜の月 |
阿蘇の嶺の | 深雪や未き | 殘るらん | 猶冴え昇る | 春の夜の月 |
注) またき(未き・まだき)=早い時期・時点。まだその時期にならないうち。
依 風 知 梅
067
ふくかせを | 尋ねゆくての | 枝折にて | 幾里か見志 | 梅のはなその |
吹く風を | 尋ね行く手の | しおりにて | 幾里が見し | 梅の花園 |
注) 枝折(しおり)=山道などで、木の枝を折っておいて道しるべとすること。
068
ふくかせの | さそふ袂の | かをらすは | 梅さく軒も | 知らて過ま志 |
吹く風の | 誘うたもとの | 薫らすは | 梅咲く軒も | 知らで過ぐまし |
朝 梅
069
さきみち志 | 軒端の梅の | 朝志めり | 花のにほひも | 沈むはかりに |
咲き満ちし | 軒端の梅の | 朝湿り | 花の匂いも | 沈むばかりに |
注) 軒端(のきば)。
070
さなきたに | 枝重けなる | 梅の露 | ありあけの月の | 影をやとして |
さなきだに | 枝重げなる | 梅の露 | 有明の月の | 影を宿して |
注) さなきたに(さなきだに)=それでなくてさえ。 ありあけの月(有明の月)。
070の景は影のままがいいのではないでしょうか。
武田智孝様
コメントありがとうございました。ミスタイプでした。すぐ訂正しておきます。今後共、チェックの程宜しくお願い致します。