松の落葉 その7
雲 雀
050
霞たつ | 末野のくさに | とこ志めて | つまこめになく | 夕雲雀かな |
霞立つ | 野末の草に | 常(床)占めて | 妻籠めに鳴く | 夕ひばりかな |
注) つまこめ(妻籠め)=妻を隠して。 雲雀(ヒバリ)。
051
なかき日も | なく音絶せぬ | 雲雀かな | 霞や於のか | すみかなるらむ |
永き日も | 鳴く音(ね)絶やせぬ | ひばりかな | 霞や己が | 住処なるらん |
尋 花
052
於くれ志の | 心のこまに | むちそへて | 花ゆゑいそく | 春の山ふみ |
遅れじの | 心の駒に | 鞭添えて | 花故急ぐ | 春の山踏み |
山 路 尋 花
053
わけきつる | 山路や遠く | なりぬら志 | 浮世はなれ志 | 花の色かな |
分けきつる | 山路や遠く | なりぬらし | 浮世離れし | 花の色かな |
花 初 開
054
ね過志ゝ | 蝶かとはかり | たどるかな | 綻ひそめ志 | 花のひとひら |
寝過ごしし | 蝶かとばかり | 辿るかな | 綻潜めし | 花の一片 |
注) 綻ひそめし(たん潜めし)=ほころびを目立たなくする。
若 水
055
汲そめて | 浸す筆さへ | いのち毛の | なかきため志の | 今朝の若水 |
汲み初めて | 浸す筆さえ | 命毛の | 長き試しの | 今朝の若水 |
注) いのち毛(命毛)= 筆の穂先の長い毛。 若水(わかみず)=元旦に初めて汲む水。
遠 山 霞
056
ゆひさゝむ | 便たにな志 | 夕霞 | かねては志るき | 阿蘇のかみやま |
指差さん | たよりだになし | 夕霞 | 兼ねては知るき | 阿蘇の神山 |
注) 阿蘇のかみやま(阿蘇の神山)=阿蘇のカルデラ内に位置する阿蘇市一の宮町宮地。神が鎮座する阿蘇山。
野 外 霞
057
夕霞 | 幾重たつらむ | かねて見志 | のすゑの松は | 於もかけもな志 |
ゆうがすみ | 幾重経つらん | 予ねて見し | 野末の松は | 面影もなし |
058
たとりつゝ | ゆくてや猶も | 遠らし | 鐘の音かすむ | 野路の夕くれ |
辿りつつ | 行く手やなおも | 遠くらし | 鐘の音霞む | 野路の夕暮れ |
鶯 告 春
059
かゝらすは | それともまたき | 志ら雪の | ふるすなからの | 鶯の聲 |
斯からす葉 | それとも未だき | 白雪の | 降る(古)巣ながらの | うぐいすの声 |
注) かゝらすは(斯からす葉)=葉擦れの音を出す葉(?)。 またき(未だき)=早くも。もう。
060
朝日影 | 光きらめく | 雪の中に | はるをたとらぬ | うくひすのこ江 |
朝日影 | 光煌めく | 雪の中に | 春を辿らぬ | うぐいすの声 |
注) 朝日影(あさひかげ)=朝日の光。