松の落葉 その3
梅 香 留 袖
011
あかさり志 | 心やこゝに | 留るらむ | 見志はきのふの | 袖の梅かゝ |
赤去りし | 心やここに | とめるらん | 見しはきのうの | 袖の梅が香 |
注) あかさり志(赤去りし)=紅梅の花が見えなくなって。
012
分きつる | 梅の園生の | 名残とや | をられぬ袖に | うくいすのなく |
分けきつる | 梅の園生の | なごりとや | 折られぬ袖に | うぐいすの鳴く |
注)分きつる=分けてしまった。 園生(そのう)=植えて栽培する庭園。 をられぬ袖に(折られぬ袖に)=折られなかったわきの梅の木に。
013
折つれは | とまるたもとの | 香をとめて | こゝにもきなけ | 軒の鶯 |
折りつれば | 留まる袂の | 香を留めて | ここにも来鳴け | 軒のうぐいす |
014
打かけて | 手折り志袖に | 梅かゝの | とまるか夜半の | 夢もかをれり |
打ち掛けて | たおりし袖に | 梅が香の | 留まるが夜半の | 夢も香れり |
注) 打かけて=物をひっかけて下げる。
歸 雁
015
ふる郷の | 花さく春を | 思ひ出て | かへるか雁の | こゑのとゝけき |
故郷の | 花咲く春を | 思いいで | 帰るが雁の | 声の届けき |
注) かへるか雁の(帰るが雁の)=帰雁。
016
歸る雁 | いかに契れる | 春なれは | さき出る花も | またていぬらむ |
帰る雁 | いかに契れる | 春なれば | 先(咲き)出る花も | 待たで去ぬらん |
河 邊 柳
017
吹風も | いと志つかなる | 川柳 | なひくやそこの | たま藻なるらむ |
吹く風も | いと靜かなる | 川柳 | なびくや底の | 玉藻なるらん |
注)玉藻(たまも)=藻の美称。
018
影うつす | 清瀧川の | やなきはら | 志たゆく水も | みとりなりけり |
影映す | 清滝川の | 柳原 | 下行く水も | 綠なりけり |
注) 清瀧川
夕 春 雨
019
花の枝は | ふるとも見江す | 夕霞 | かすみや露を | まつこほ志けむ |
花の枝は | 触るとも見えず | 夕霞 | 霞や露を | 先ずこぼしけん |