松の落葉 その2
松 の 落 葉
春 歌
鶯 千 春 友
001
これのみや | ちとせの春の | 友ならむ | なれ志のきはの | 黄鶯の聲 |
これのみや | 千年の春の | 友ならん | 慣れし軒端の | こうおうの声 |
注) 黄鶯(こうおう)=高麗鶯(こうらいうぐいす)。ウグイスとは別種。
002
友となり | ともにな志つゝ | 鶯よ | ちとせの春を | かけてちきらむ |
友となり | 友(共)になしつつ | うぐいすよ | 千年の春を | 掛けて契らん |
雪 中 鶯
003
さゝのはの | ゆきをこほ志て | あかつきの | 初音うれ志き | 軒の鶯 |
笹の葉の | 雪をこぼして | 暁の | 初音嬉しき | 軒のうぐいす |
004
竹の子に | あらぬ初音の | 嬉志きは | ゆきの中なる | うくいすの聲 |
竹の子に | あらぬ初音の | 嬉しきは | 雪の中なる | うぐいすの声 |
005
梅か枝に | はふけはやかて | ちる雪を | はなにな志ても | 鶯のなく |
梅が枝に | 葉伏けば | 散る雪を | 花に成しても | うぐいすの鳴く |
注) はふけは(葉伏けば)=葉が隠れて表面に出ない(落葉すれば)。はなにな志ても(花に成しても)=花に変えても。
006
うくひすの | 聲のとかなり | 梅か枝に | 残れる雪も | 花にな志つゝ |
うぐいすの | 声のどかなり | 梅が枝に | 残れる雪も | 花に成しつつ |
霞 中 柳
007
絶々に | 吹なす春の | ゆふかぜに | なひくかすみや | あを柳のいと |
絶え絶えに | 吹き成す春の | 夕風に | 靡く霞や | 青柳の糸 |
注) 吹なす春の(吹き成す春の)=春風のように吹く。 いと(糸)=糸状になっているもの。つまり柳の葉。
若 菜 稀
008
かき暮志 | 雪の降野を | あさりても | つまとる程も | なき若菜かな |
掻き暗し | 雪の降る野を | あさりても | 端取るほども | なき若菜かな |
注) かき暮志(掻き暗し)=空が暗くなるほど強く降る。 あさりても=探し回っても。 つまとる(端取る)=つまみ取る。
霞 知 春
009
若草も | また萌いてぬ | 春日野は | かすみはかりや | 春を志るらむ |
若草も | まだ萌え出でぬ | 春日野は | 霞ばかりや | 春を知るらん |
注) 春日野=奈良、春日山麓に広がる野。春日野
都 早 春
010
さ江かへり | やなき櫻の | いろもな志 | 都の春を | なにゝとはま志 |
冴え返り | 柳桜の | 色もなし | 都の春を | 何に問わまし |
注) 柳桜
一口メモ
この「松の落葉」は、上段に分類項目と詞書(ことばがき)、通し番号、著者による和歌の翻刻、和歌の釈文(しゃくもん)、注意書きで構成されます。
当時の原文は、毛筆で書かれていますので、字母(変体がな)が混じり、濁点が省かれ、旧漢字や俗字がありますので、和歌の翻刻の下段に判りやすい表記が釈文として加えてあります。
注意書きは釈文を補佐するものです。
釈文及び注意書きが作者の本意に添ったものかどうかは判りませんので、おかしいと思われた場合は、是非ご指摘下さい。
一頁に10首程度掲載してゆきますので、お楽しみ下さい。