松の落葉 その1

一口メモ

上記小冊子(93X175X5mm)は、明治42年7月20日に、福井市の岡崎活版所で印刷された非売品の書物です。内容は、当家十代の本家である志方十兵衛の孫にあたる志方半兵衛之教(軸人)が歌った和歌350首を、その子である志方景美がまとめ上げ、景美の兄である志方秋水が抒文と奥書を寄せたものです。

作者と当家十一代と十二代は従兄弟同志の関係にありますが、作者と当家十二代の廣川(祖厚禅師)とは、和歌の師匠が同じ中島廣足でしたので極めて近い関係にあったようです。但し、作者と廣川とは年が離れ、作者は20年も年上の関係でした。このような関係から、当家十二代は、巻頭に和歌を寄せています。

漢文のため、割愛します。

寄 稿

水莖のあとを見るにももろともにあそひしゆめの春そこひしき
みずくきの跡を見るにも諸共に遊びし夢の春ぞ恋しき

筆の跡を見ても、皆で遊んだ夢の春こそ懐かしいものだ。 廣川

注) 水莖(みずくき)=筆。

緖 言

◎ 此松の落葉は、昔志吾 父の朝日のさ志たる窓のかたはら、

  梅の花になく鶯の初音をめで、假寝の枕のほとり、花橘の

  薫りに昔志を忍び、松の軒はに照り志月の光、竹の園ふを

  埋め志、雪の色のけ志きなどを始めと志て、ありとあらゆる

  世のありさまを、みやび心に浮びいづるまゝ、よみいでられ志

  歌どもなり。

  もとは歌の數もあまたありつれど、西南の騒ぎに、原書は空志く

  兵火のために烏有(うゆう=全くない)に歸志たり。さればそのゝち

  吾父は、かさねて筆をとりて、再び松の落葉をかきあつめむと思ひ

  たゝれ志も、中途に志て病のために世をさられぬれば、今は

  わづかに、花の香と月の光とを、めでられ志俤(おもかげ)を

  存するにとゞまりぬ。

  

◎ 歌の順序は吾 父の書き於かれ志草稿のまゝなれば、

  ほゞ部門を四季戀雑の四種に分類志あるに過ぎす。

◎ 巻頭にかゝげ志水莖のあとなる歌は、吾 叔父なる高見

  廣川ぬ志の、かくば志き(かぐは志き?)花の陰に、さやかなる月の下に、

  なき父と袂つらねて遊ひたまひ志夢のあとを、なつか志

  く於もはれてよせらり志ものなり。

◎ 巻頭にかゝげ志序文ならびに於くがきは、吾兄秋水の

  筆によりて、のこりなく綴りいだされ志ものなり。

◎ 此松の落葉を、上梓(じょうし=出版)せ志ゆゑんのものは、あへて吾 父の

  遺稿を、世に傳へ人に知ら志めむとの、心にはあらず、た

  ゝ父の思のこもれる遺稿が、猶この上にも散りうするもの、

  厄にかゝらむことを、恐るゝがためなれば、世の人、ゆめ

  ほこりかになせ志と思ふことなかれ。

    明治四十二年酉の四月十八日   志方景美誌

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