寒山詩偈讃歌 59
281
足清風 | 扇不搖 | 凉氣通 |
清風足る。 | 扇搖(ゆる)がずして、 | 凉氣通ず。 |
松風を | あふぎにかへて | 夏も猶 | すゞしく過ぐる | みやまぢの奥 |
涼風を送り込む扇に代えて、松の間を抜ける風そのものが、真夏でさえも涼しく感じさせる奥山は、何と過ごしやすい処であろう。
282
獨自居 | 不生死 |
獨自から居して、 | 生死あらず。 |
いき死も | しらぬ此身は | とことはに | いくよろず代も | ふるとしらなむ |
煩悩に取り憑かれて迷いの世界を生きていることに気が付かない者は、いつまで経っても成仏できないことを知って欲しいものだ(武田智孝氏訳)。
283
一朝忽然死 | 祇得一片地 |
一朝忽然として死すれば、 | 祇(た)だ一片の地を得。 |
水の泡の | 消えてのちこそ | 思ふらめ | 世にあらそひし | かひもなき身と |
生きている内に、争いを起こした挙句、命を落としてしまって初めて、意味のない人生だったと気づくであろう。
284
書放屏風上 | 時時看一扁 |
書して屏風上に放ち、 | 時時看ること一扁せよ。 |
注) 「扁」の正字は行人偏の右ハネが付く。
うへもなき | 言葉の花を | 朝夕に | あふがばおのが | つみも消えなむ |
至高の言葉の綴りを、朝な夕なに仰ぎ見れば、自分の罪も消えようというものだ。
285
打酒詠詩眠 | 百年期髣髴 |
酒を打し詩を詠じて眠り、 | 百年髣髴(ほうふつ)を期す。 |
月花に | 身をまかせつヽ | すぐしなば | もヽのよはひも | のばへむものを |
月や花などの自然に親しみ生きてゆくならば、百年もの間命をながらえるものを。
一口メモ
上記画像は、祖厚禅師の一周忌にちなみ、弟子達が献詠された歌の3枚目の画像です。
長らく寒山詩偈賛歌にお付き合い頂きありがとうございました。和歌の解釈につきましては大変苦労しましたが、幸い武田智孝氏に絶大なご協力を頂き、無事に終了することができました。改めてお礼を申し上げます。
次回からは、個々の古文書を無作為に選び出し、解読と内容の吟味にチャレンジして行きたく思います。
尚、解読に当たりましては、FaceBookのグループ「古文書が読みたい!」のメンバーの方々のご協力を賜り完成出来たことを申し添えます。