寒山詩偈讃歌 54
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一選嘉名喧宇宙 | 五言詩句越諸人 |
一たび選ばれて嘉名宇宙に喧し(かまびすし=やかましい)。 | 五言の詩句諸人に越ゆ。 |
散りはてヽ | 後こそしらめ | 匂ふとも | みもなき花は | かひなかりしと |
匂いが残っていても、結実しない花は無駄であったと、散り去ってはじめて知ることになるだろう。
257
但看陽炎浮吐水 | 便覺無常敗壞人 |
但看陽炎浮吐水、 | 便覺無常敗壞人。 |
注) 「炎」は旧字。「陽炎」はかげろふ。 「吐」は旧字。「浮吐」は泡の意。
かげろふの | たつかと見れば | 消ゆる世を | しらで空しく | 過るはかなさ |
陽炎が立つかと見ればすぐに消えてしまう、そのようにはかない世の中であることを知らないで、むざむざと浮かれて過すのは何と浅はかな事だろう(武田智孝氏訳)。
258
直待斬首作兩段 | 方知自身奴賊物 |
直に斬首兩段と作るを待つて、 | 方に知らん自身奴賊物なることを。 |
身はきえて | 消えぬこヽろの | 玉をはや | 世にあるほどに | みがきおかなむ |
自分が死んでしまっても、決して消えたりはしない心の魂を、生きているうちに、念入りに手入れをして、美しくしておきたいものだ。
259
可歎往年與今日 | 無心還似水東流 |
歎ず可し往年と今日と、 | 無心にして還つて水の東流するに似たり。 |
ながれ行く | 月日ぞはやき | 夢の間に | かしらの雪の | つもるおもへば |
頭に白髪が増えてきたことを考えると、月日の流れはとてつもなく早く、夢の間のようだ。
260
閑於石室題詩句 | 任運還同不繋舟 |
閑に石室に詩句を題すれば、 | 任運に還つて不繋の舟に同じ。 |
わがこヽろ | つながぬ船の | こヽちして | 過ぐる月日ぞ | たのしかりける |
自分の心は係留されていない船のようだ、と感じて日々を送るのは本当に楽しいものだ。
一口メモ
上記画像は、十代の高見権右衛門武棟の筆の様ですが、中に書かれている文章は文字自体が小さく、判読出来ません。表題部分はよく分かりませんが次の様です。
常々風躰を笑ふ人に□ふる画談 常日頃、身なりや風体を馬鹿にしている人に与える絵画についての話。
また、漢文は次のとおりです。
農人挙笑裁可及其健不可風躰
右下には、松栞生拝寫 とあり、権右衛門武棟が描いた原画を、この人が写して巻軸装に仕上げたようです。