寒山詩偈讃歌 46
216
松月叟叟冷 | 雲霞片片起 |
松月叟叟 (しうしう)として冷に、 | 雲霞片片として起る。 |
注) 「叟」の正字は「風扁に叟」
雲かすみ | 世をへだてたる | 深山路の | まつの木間(このま)の | 月のさやけさ |
雲や霞で俗世からさえぎられ、深い山路に生えている、松の木々の間から見える、月は何とさえて明るいことか。
217
恰似春日花 | 朝開夜落爾 |
恰(あたか)も春日の花に似たり。 | 朝に開いて夜落つるのみ。 |
注) 「爾」の正字は人扁に旁は人冠に小(=然り)。
おもはなむ | 聞くと見つると | 花の色も | よの間にちりて | あともなきよを |
美しい花でも、一夜にして散り果てて、跡形もなくなってしまう様を見たり聞いたりした、そのことをよく心にとめておこう(武田智孝氏訳)。
218
下有棲心窟 | 橫安定命橋 |
下に棲心の窟有り、 | 橫に定命(ぢやうみやう)の橋を安んず。 |
身をみとも | さらにおもはぬ | 佛のみ | やすく行かふ | はしぞこの橋 |
穢れた身体的欲望から解放され、悟りを開いた人だけが、いともた易く行き来できる橋、それは聖俗を分け隔てる橋であるよ(武田智孝氏訳)。
219
我自觀心地 | 蓮華出淤泥 |
我自ら心地を觀るに、 | 蓮華淤泥(おでい=泥)を出づ。 |
にごる水も | 心すみなば | 華はちす | にほひいづべき | ものとしらなむ |
心配や邪念がなければ、濁った水でも蓮の花のように、良い香りを放つものだと知ってほしい(武田智孝氏添削)。
220
隱士遁人間 | 多向山中眠 |
隱士人間(じんかん)を遁(のが=逃)れて、 | 多く山中に向つて眠る。 |
松の風 | 谷のながれも | こヽろだに | すまばきヽても | しづかならまし |
松の間を吹き抜ける強風や、谷川を流れる激しい水音などを聞いても、心に澄んだ気持ちがあれば、それは静かに思えるものだ。
一口メモ
上記短冊の俳句は件の Facebook「古文書が読みたい!」のメンバーにより、解読頂きました。
右
詞書 多禮可磐君を 王須連井の水奈と よミて給へ流 御返しの心越 (たれかは君を わすれ井の水など よミて給へる 御返しの心を)
王数連井乃 | 水と聞く尓母 | 春み可多幾 | 古ゝろ越いつ可 | 君尓く末禮舞 |
わすれ井の | 水と聞くにも | すみかたき | こころをいつか | 君にくまれむ |
左
詞書 七十六翁 多可臣
い者飛し遠 | 春佐幾に多亭る | あし多津留 | ミよよ路春よ登 | よ遍よ者ふ羅舞 |
いはひしを | すさきにたてる | あしたつる | ミよよろずよと | よへよはふらむ |