寒山詩偈讃歌 45
211
大海一滴水 | 吸入其心田 |
大海は一滴の水、 | 吸うて其の心田に入る。 |
大海の | はてなき水も | もとはたゞ | 心の山の | したヽりぞこれ |
大海原の果てしない水も、元をただせば、全て心(八識・九識・十識)の意識作用から生み出されたものである(武田智孝氏添削)。
212
懷歎復懷愁 | 皆縁義失所 |
歎を懷(なつかし)き復た愁を懷(なつ)く。 | 皆義の所を失ふに縁つて、 |
もとめずも | うるべきものを | 世にいでヽ | 身さへたゞしき | 道をまもらば |
世の中に出てからは、自分さえ正しい道を守ってゆけば、欲しいものを求めようとしないでも、手に入るものだ。
213
逐日養殘躯 | 閑思無所作 |
日を逐うて殘躯を養ひ、 | 閑(しづか)に思うて所作無し。 |
注) 「躯」の正字は旁の区を區に置き換える。
なす事も | なくて日をふる | 身とならば | 世のうきめをも | しらで過ぐべし |
やるべきこともなく、毎日を過ごす身分となれば、世の中の辛いことも知らずに生きて行けよう。
214
一朝福報盡 | 猶若棲蘆鳥 |
一朝福報盡くれば、 | 猶ほ蘆に棲む鳥の若く。 |
山をなす | たからもつひの | たきぎぞと | おもひしりなば | 身の罪もなし |
山のようにたまった財産も、最後に死ぬ時には単なる薪だと思い知ったならば、強欲などという罪を犯さずに済むというものだ(武田智孝氏添削)。
215
遠遠望何極 | 兀兀勢相迎 |
遠遠として望み何ぞ極らん。 | 兀兀(ごつごつ=山が高いこと)として勢ひ相迎ふ。 |
注) 「兀」の正字はこれに石扁がつく。
高くとも | おのがこヽろの | かくれ家を | しらずば山も | かひなからまし |
自分の心の芯となる信仰心が無ければ、高い山(高位高官、位人)が心を極めても、ただ空しいだけだ(武田智孝氏訳)。
一口メモ
上記短冊の俳句は件の Facebook「古文書が読みたい!」のメンバーにより、解読頂きました。
右
詞書 夏月透竹 廣川
若多計乃 | 奈飛く数可多母 | 月可介尓 | うつしてむ可ふ | よ者能すゝし左 |
若たけの | なびくすがたも | 月かげも | うつしてむかふ | よはのすずしさ |
中
詞書 艶女遇他人 真足
手弱女の | 心乃花能 | 色可弊天 | ま多ゝ可袖尓 | 香乎う津すらむ |
たよわめの | 心の花の | 色かへて | またゝか袖に | 香をうつすらむ |
左
詞書 奈須の余市 真足
こゝをせと | 者奈つ矢し末乃 | 宇ら風に | 扇を奈ミ乃 | 花と知李都ゝ |
こゝをせと | はなつ矢しまの | うら風に | 扇をなみの | 花と知りつつ |