寒山詩偈讃歌 41
191
野情多放曠 | 長伴白雲閑 |
野情放曠(こう=広々としてなにもない)多く、 | 長く白雲に伴うて閑なり。 |
ちりもなし | ひとり野山の | 雲霧を | 友となしつヽ | あそぶこヽろは |
一人で野山にでかけて、雲や霧を相手にくつろいで、何もしないでいると、晴れやかな気持ちになるものだ。
192
爲心不了絶 | 妄想起如烟 |
心了絶せざるが爲に、 | 妄想起りて烟の如くなるも、 |
月はつねに | さやけきものを | 立木おほふ | むねの煙に | はるヽ間ぞなき |
月は常に光が冴えて明るいのに、邪念が邪魔をして心がもやもやしていれば、その月が晴れて見える時はない。
193
下望山青際 | 談玄有白雲 |
下に山の青際を望めば、 | 玄を談(かた)るに白雲有り。 |
大空に | そびゆる山の | 松風に | はらへばきゆる | 峯のしら雲 |
峯にわいていた白雲も、大空にそびえ立つ山から、ひとたび松風が噴き出せば、消え去るものだ。
194
未讀十卷書 | 強把雌黄筆 |
未だ十卷の書を讀まずして、 | 強いて雌黄の筆を把る。 |
注) 「雌黄」は鋳物の名で、色は黄赤、写し字の訂正のための絵の具に供す。
得ざるをも | えたりといひて | とる筆に | いよヽはかなき | わざぞ見えける |
未だ習得していない事柄を、自分は理解したと言って筆を執るのは、益々頼りのないありさまと思える。
195
心中無慚愧 | 破戒違律文 |
心中慚愧(ぎ=罪を恐れる)無く、 | 戒を破つて律文(=韻文)に違ふ。 |
大方の | 人を地獄に | みちびきて | いよ/\つみを | つくる法の師 |
多くの人々を地獄に陥れ、益々罪を重ねてゆく、僧形をした俗人がいる。
一口メモ
上記短冊の詞書(ことばがき)と短歌は件の「古文書が読みたい!」のグループのメンバーにより解読頂きましたが、右と中の句には推敲の過程が見受けられます。
右
詞書 般若林生徒諸子卒業を祝須
末奈ひをへし | 文の林能 | 若草乃 | 花さ記出舞 | 春そ未た流々 |
まなひをへし | ふみのはやしの | わかくさの | はなさきでまい | はるぞまたるる |
中
詞書 般若林諸子卒業越祝て
しげ里行 | 文能林乃 | 若草能 | 花さ記出舞 | 春そまた流々 |
しげりゆく | ふみのはやしの | わかくさの | はなさきでまい | はるぞまたるる |
左
詞書 淡富君の園尓てはしめて鶯乎きく
う連しくも | 君乎とひ来て | 聞し可那 | 奈く鶯の | 春能者徒聲 |
うれしくも | きみをとひきて | ききしかな | なくうぐいすの | はるのはつこえ |
注) 上記の右・中の詞書きに記載されている般若林とは現在の京都市立紫野高等学校のことで、宗国寺・東福寺・大徳寺三山が徒弟教育のために大徳寺の寺域に建てた学校のことです。