寒山詩偈讃歌 36
166
綠水千腸咽 | 黄雲四面平 |
綠水千場に 咽(むせ)び、 | 黄雲四面に平かなり。 |
みどりなす | 木々の下水 | 音立てヽ | 四方にひゞける | 聲ぞしづけき |
緑豊かな木々の下に流れている水が、周囲に大きな音を立てて鳴り響くと、そこにひとしお静けさを感じる(武田智孝氏添削)。
167
多少天台人 | 不識寒山子 |
多少天台の人、 | 寒山子を識(し)らず。 |
かぞふれば | あまたが中に | 我をしる | 友はえがたき | ひとのよぞこれ |
数知れぬ人々の中で自分を理解してくれる友人は得がたい、これが人の世だ(武田智孝氏訳)。
168
狂風吹驀榻 | 再豎卒難成 |
狂風吹いて驀榻す(ばくたふ=まっしぐらに腰かけに座る)。 | 再び豎(た)つること卒(つ)ひに成り難し。 |
生ふる身も | 吹きくる風を | こヽろせよ | 終にくち行く | 家居のみかは |
生きているこの身も、吹き付けてくる強風に注意を払え、強風によって、ついに最後に朽ち果てて行くのは住居だけではないぞ。つまり、おまえもだ(武田智孝氏訳)。
169
若無阿堵物 | 不啻冷如霜 |
若し阿堵物(あとぶつ=銭)無くんば、 | 啻(た)だ冷きこと霜の如きのみにあらず。 |
玉をしく | 家のさかえも | 世にめづる | こがねなければ | なるよしもなし |
富裕が行き届いている家の繁栄も、世間で価値が認められている金貨が無ければどうしようもない。
170
一日有錢財 | 浮圖頂上立 |
一日錢財有ば、 | 浮圖(ふと=仏陀)頂上にも立たん。 |
世の中に | こがねしもたば | ほとけをも | 神をまつるも | めのまへにして |
世の中で、財貨さえ持っていれば、ついついおごりが生じて、仏や神を祀る一歩手前で立ち止まってしまうものだ(武田智孝氏訳)。
一口メモ
上記画像の筆者源悦子様は、熊本藩第十二代藩主細川護久公の正室宏姫靖子様の長女として明治10年に誕生。後に一条実輝様の妃となられました。祖厚禅師とは互いに自らの作品の交換をされていたようです。この色紙も偶然目に止まったものですが、美しい字体に心が打たれましたので、掲載させて頂きました。
くずし字の解読につきましては、件のFacebook「古文書が読みたい!」の会員の皆様のご協力を得ました。
年の始尓寄海祝止いふ事を | 於本世ことによりて与める歌 | 源 悦子 上 |
年の始に寄海祝といふ事を | おほせことによりてよめる歌 | 源悦子 上 |
年の始めに「寄海祝」を御題にして読んだ歌です。 源 悦子 上
注) この御題は明治28年の宮中の歌会始の御題だったようです。この年は悦子様が18歳の時で、その時の歌会始は、日清戦争のために中止となりました。(以上は、同会員の方から教えて頂きました)。
ち悲ろある | うみ乃曽こにも | 於本幾三能 | めく三みる免の | 志遣留み世可那 |
ちひろある | うみのそこにも | おほきみの | めくみみるめの | しけるみよかな |
広大な海の底にも、大君の恩恵が行き渡っているのが判るほど、何と繁栄した御代であることよ。