寒山詩偈讃歌 31
141
欲伏猟猴心 | 須聽獅子吼 |
猟猴(みこう=猿を狩る)の心を伏せんと欲せば、 | 須らく(すべからく=当然)獅子吼(吠える)を聽くべし。 |
南無佛の | 聲しきヽなば | とゞめえぬ | ましらごヽろも | しづまりぬへし |
お経の唱えをしっかり聴いたならば、煩悩や情欲の自制しがたい気持ちも、落ち着くであろう。
142
極貧忍賣屋 | 纔富須買田 |
極めて貧なりとも屋を賣ることを忍べ。 | 纔(ひたた=わずかに)富まば須らく田を買うべし。 |
何事も | しのびてあしき | ものはなし | 雨風しのぐ | 假のこの身は |
雨や風を耐えしのぐ仮住まいのこの身では、何事も我慢をすれば、決して悪い結果にはならない。
143
月照水澄澄 | 風吹草獵獵 |
月照して水澄澄。 | 風吹きて草獵獵(れうれう)。 |
注) 「獵獵」=風聲の貌
ふく風に | 高ねの雪を | はらはせて | すめるもきよき | 水の月かげ |
高みにいる権力者は、時代の嵐によって、吹き払われ没落するにまかせておけばよし。我が心は澄んだ水に映る月影のごとく清らかである(武田智孝氏訳)。
144
皮膚脱落盡 | 唯有眞實在 |
皮膚脱落し盡きて、 | 唯眞實のみ在る有り。 |
雪霜を | しのぎ/\て | くつる身に | かはらぬものは | こヽろなりけり |
厳しい自然の雪や霜などを耐え忍んで、朽ち果てるような身であっても、変わらないものは心の豊かさだけである。
145
常持智慧劍 | 擬破煩惱賊 |
常に智慧の劍を持し、 | 煩惱の賊を破らんと擬す(思案する)。 |
はらへたゞ | おのがこヽろの | 雲霧を | 智恵の利刀の | つるぎかざして |
自分の心の内にある煩悩に対しては、大いなる智慧を振り絞って、果敢に攻めて打ち払いなさい。