寒山詩偈讃歌 29
131
衣單為舞穿 | 酒盡縁歌倅 |
衣は單(ひとへ)にして舞の為に穿(うが)つ。 | 酒は盡(ことごとく)歌に縁って倅(な)む。 |
注) 「倅」の正字は人扁を口扁に置き換える。嘗める。
經をうり | ほとけを賣りて | 市町の | にぎはひくさと | なすがかしこさ |
経典を売り、仏像を売ることによって、町なかの賑わいの元を作ろうとするのは、恐れ多くもったいないことだ(武田智孝氏添削)。
132
塚破壓黄腸 | 棺穿露白骨 |
塚破れて黄腸(こうちょう)を壓(=圧)し、 | 棺穿(うが)ちて白骨を露(あらは)す。 |
雨風に | うづみし骨も | あらはれて | みるもなみだの | たねとなりつヽ |
埋葬されていた骨が風雨にさらされ、地表に現れてきたのを見るのは、本当に涙をさそうものだ。
133
手中無寸刃 | 爭不懼懾懾 |
手中に寸刃無くんば、 | 爭(いか)でか懼(おそ)れて懾懾(せふせふ=おそれる)たらざん。 |
身にもてる | つるぎの光 | くもりなば | みやまの奥に | いかですむべき |
自分自身に備わっている判断力に、わだかまりや後ろめたさが出て来たならば、深い奥山にどうして住むことができようか。
134
未能捨流俗 | 所以相追訪 |
未だ能く流俗を捨つること能はず。 | 所以(ゆゑ)に相追訪す。 |
なき人を | 今日も送りて | おろかにも | なほすてがたき | 世にぞ住みぬる |
死んでしまった人を今日も見送って、未熟なことに、未だに捨てがたい気持ちで、この世に住み続けている自分が情けない。
135
雖云一百年 | 豈滿三萬日 |
一百年と云うと雖も、 | 豈に(あに=どうして)三萬日に滿たんや。 |
百とせも | 夢のたゞちに | すぐる身を | しらでくるしむ | 人あはれなり |
「邯鄲の枕」の古事のごとく、人の世の栄枯盛衰のはかなさを知らずに、苦しんでいる人は、気の毒なことだ(武田智孝氏添削)。
一口メモ
上記掛軸の画像は、肥後細川藩十二代藩主である細川護久公の息女猷子様(明治12年/1879~明治31年/1898)の御筆です。
猷子様は前ページの悦子様の妹君に当たります。