寒山詩偈讃歌 23
101
夫妻共百年 | 相憐情狡猾 |
夫妻共に百年、 | 相憐んで情狡猾(こうかつ=悪賢い)たり。 |
百とせの | ちぎりも何か | たのむべき | その人ならぬ | よはひたがはゞ |
百年の宿縁も、相手が変わり、年も違ってしまえば、何を根拠に信用するというのであろうか、。
102
時哭路邊隅 | 屡日空思食 |
時に路邊の隅に哭す。 | 屡日(るじつ)空しく食を思ひ、 |
あはれまた | 此世の餓鬼と | 生れ来て | くさをしとねと | 過ぐるいのちは |
生前の悪行のために、この世では餓鬼道に落ちて生まれて、寝床は枯草で過ごすような宿命は、何と哀れなことか。
103
童子欲來沽 | 狗咬便是走 |
童子來り沽(かは=おろそか)んと欲すれども、 | 狗(く=犬)に咬まれて便(すなは)ち是れ走る。 |
世の中は | 人かむ犬を | しらずして | あはれとゞめて | 國ぞみだるヽ |
世の中を見ていると、裏切り者(不忠者)をそれと見抜けずに、あらんことか側近に据えたりして、これは国が乱れる元ですよ(武田智孝氏訳)。
104
狐假師子勢 | 詐妄卻稱珍 |
狐師子(しし)の勢を假り、 | 詐妄(さもう)して卻つて珍と稱す |
獅子をかりて | 人をたばかる | きつねのみ | おほき此世を | いかにしてまし |
虎(獅子)の威を借る狐のような奴らばかりが、やたらと多いこの世の中を、いったいどうしららいいものか(武田智孝氏訳)。
105
疎疎圍酒罇 | 蘆菰將代席 |
疎疎として(まばらに)酒罇(しゅそん)を圍む。 | 蘆菰(るしょう=まこも)將(もって)席に代へ、 |
注)「菰」の正字は草冠に「哨」の旁。
野に山に | くむさかづきの | たのしみは | うき世の外の | かげぞうつれる |
野や山に出掛けて、杯を酌み交わす楽しさは、つらいことの多いこの世とは、違う景色が見えるようだ。
一口メモ
上記画像は、祖厚禅師自筆の漢詩ですが、内容は寒山子詩の七言律詩と七言絶句が書かれています。
表題として、「大正五丙辰(ひのえたつ)春三月拝讀寒山大師詩有感書 七十四歳 祖厚」とあり、読後の感想を意味したものと思われます。
世間何事最堪嗟 | 世間何事か最も嗟(なげ)くに堪たる。 |
盡是三途造罪祖 | 盡(ことごと)く是れ三途(さんず=三悪道)造罪の祖(いかだ、正字は木偏に査)。 |
不學白雲巖下客 | 學ばずや白雲巖下の客、 |
一條寒衲是生涯 | 一條の寒衲是れ生涯。 |
秋到任他林葉落 | 秋到れば任他林落葉。 |
春來從尓(人偏に尓)樹開花 | 春來れば從尓(人偏に尓)(さもあらばあれ)樹花開く。 |
三界橫眠無一事 | 三界に橫(ほしいまま)に眠つて一事なし。 |
清風明月是我家 | 清風明月是れ我が家。 |
千生萬死何時巳 | 千生萬死何れの時か巳(や=止)まん。 |
生死來去轉迷情 | 生死來去(しやうじらいこ)轉た(うたた=ある状態が進行して甚だしくなる)迷情。 |
不識心中無價寶 | 心中無價の寶を識らざれば、 |
拾似盲驢信脚行 | 拾(猶)ほ盲驢(めくらのロバ)の脚に信(まか)せて行くがごとし。 |