寒山詩偈讃歌 20
086
水結即成氷 | 氷消返成水 |
水結べば即ち氷と成り、 | 氷消ゆれば返つて水と成る。 |
生死の | はてもしるべし | むすびては | こほりともなる | 水をさとらば |
水は結晶し氷になり、また融けて 水に戻ることを理解していれば、人間の喪の終わったあとに、どうなるかを知ることもできるはずだ。人間も輪廻転生の中にいる(武田智孝氏添削)。
087
不覺大流落 | 播播誰見矜 |
覺えず大に流落す。 | 播播(はんばん)として誰か見て矜(あはれ)まんや。 |
注) 「播」の正字は、白+番。
時を得て | おこりし人も | 老はてヽ | 世をはかなさと | なげくかひなし |
機をとらえて隆盛した人も、老人になって世の中は、はかないものだと嘆いても、それは仕方がないことだ。
088
信君方得珠 | 焉能同汎艶 |
君が方に珠を得るに信(まか)す。 | 焉(いずくん)ぞ能く同じく汎漂(はんえん)として、 |
注) 「汎艶」 汎は水に浮かぶ姿。艶(えん)はただよう姿。「艶」の正字はさんずいに艶 。
玉をえて | 身をすてんより | おのづから | 生のまに/\ | 世をやへなまし |
財産を得ることに夢中になって身を投じるより、自然体で生きるがままに人生を楽しめばよかったのに(武田智孝氏添削)。
089
行之則可行 | 卷之則可卷 |
之を行ふときは則ち行ふ可し。 | 之を卷くときは則ち卷く可し。 |
あめつちの | ことわりして | 何事も | 時にまかせて | 過ぐべかりけり |
何もかも宇宙の道理に従って、時が経るままに、自然体で過ごすべきであった。
090
益人明何損 | 頓訝惜餘光 |
人を益とするとも明なんぞ損せん。 | 頓に訝(いぶか)る餘光を惜しむことを。 |
注) 「何」の正字は「言+巨」
いかばかり | たのしからまし | ともし火の | ひかりをわけて | 人をてらさば |
お互いに考え方を開陳し、理解し合えば、どれほど楽しいことであろうか。