寒山詩偈讃歌 17
071
借問作何色 | 不紅亦不紫 |
借問(しゃくもん)す何の色をか作す。 | 紅のあらず亦た紫にあらず。 |
生まれ來し | こヽろの色は | そめもせで | 千とせもくちぬ | 匂なりけり |
生まれてきたままの心の色は、染返しをしないでも、永遠に色落ちがしない美しい色合いである事よ(武田智孝氏添削)。
072
柔和如卷霧 | 搖洩似行雲 |
柔和にして霧を卷くが如く、 | 搖洩(えうえい)して行雲に似たり。 |
注) 「洩」の正字はさんずいの代わりに手扁。
たふとしな | 眞如の月の | ひかりこそ | あまつみ空に | みちわたりけり |
ありのままの月の光そのものこそ、広く大空に満ち渡る誠に気高く品位のある光である。
073
心貪覓榮華 | 經營圖富貴 |
心貪(とん)にして榮華を覓(もと)め、 | 經營して富貴を圖(図=はかる)す。 |
あはれたゞ | 世のさかえのみ | 願ふ身の | つひにはくらき | 闇にまよふも |
気の毒なことだが、世の中の繁栄だけを願っている人は、最後には暗闇の中で迷ってしまうものだ。
074
子大而食母 | 財多還害己 |
子大にして母を食う。 | 財多くして還つて己を害す。 |
たのまれず | 子をおもふ親 | の眞心を | あだになしゆく | 人の世の中 |
子供の幸せを願う親の真心を、無益なものに変えてしまう、この世の中は何とまあ当てにならないことよ(武田智孝氏添削)。
075
得利渠即死 | 失利汝即祖 |
利を得れば渠(首領)即ち死し、。 | 利を失すれば汝即祖(たほ)れん |
注) 「祖」の正字はかばね編に且。
みちかくる | 世のことわりを | おもひなば | むさぼる心 | あに出でめやは |
揺れ動くこの世の筋道を考えれば、飽きることなく物事を欲しがる心が、どうして出てくるのであろうか。