寒山詩偈讃歌 16
066
終歸不免死 | 浪自覓長生 |
終に歸りて死を免れざるに、 | 浪(みだ)りに自ら長生を覓(もと)む。 |
うまれきて | 愚痴をたのしと | 過ぐる人 | あはれよみちの | 道まどふらし |
この世に生まれて、愚痴を言う事が楽しいと思い込んでいる人は、暗い夜道に迷っているような気の毒な人だ。
067
折葉覆松室 | 開池引澗泉 |
葉を折って松室を覆ひ、 | 池を開いて澗泉を引く。 |
注) 「澗」の正字は、日を月に置き換える。
たのしさは | かぎりあらめや | 松影に | いづみをくみて | 世を過す人 |
松の根元にある泉の水を汲んで生活をする人々にとって、楽しさに限界があるであろうか。きっと何をやっても楽しいに違いない。
068
能益復能易 | 當得上仙籍 |
能く益し復た能く易ふれば、 | 當に上仙の籍を得べし。 |
生死も | 何かあるべき | あめつちと | ひとつこヽろに | かへしはてなば |
無我、無心の境地に返るならば、生きるの死ぬのと何を思い煩うことがあろうか(武田智孝氏訳)。
069
徒勞説三史 | 浪自看五經 |
徒らに勞して三史を説き、 | 浪(みだ)りに自ら五經を看る。 |
かぎりなき | 文のはやしを | 分け来ても | 心まよへば | かひなかりけり |
際限のない文章の数々を読み分けても、自分の心が乱れてしまえば、読書の効果はないものだ。
070
寒山月華白 | 默知神自明 |
寒山月華白し。 | 默して知れば神自ら明に、 |
てりまさる | み空の月も | おのづから | こヽろにかよふ | 光とぞしれ |
照り輝いている夜空の月も、自分自身の心の内に生み出された光であると知ることだ。