寒山詩偈讃歌 14
056
煩惱從何生 | 愁哉緑苦生 |
煩惱何によりてか生ず。 | 愁ひなるかな苦に緑つて生ず。 |
おもふこと | つきぬまよひに | いとゞなほ | 苦しきうみに | しづみはつらむ |
考え事が迷いに迷って、それでもいよいよなお、苦しい海底に沈みこんでいるのだろうか。
057
土牛耕石田 | 未有得稻日 |
土牛石田を耕せば、 | 未だ稻を得るの日有らず。 |
世にいでし | かひこそなけれ | たぐひなき | 人のひとたる | 道をしらずば |
こよなく尊い人の道を知らなければ、この世に生まれてきた甲斐がないではないか(武田智孝氏訳)。
058
草生芒種後 | 葉落立秋前 |
草は生ず芒種(ぼうしゅ)の後。 | 葉は落つ立秋の前。 |
おもへ人 | 花ほとヽぎす | 月ゆきも | たゞゆめの間に | 過ぐるながめを |
人たるものは、桜や時鳥、月、雪など自然の移ろいは、夢の中で過ぎ去ってゆく眺めであることを考えなさい。
059
心惆悵狐疑 | 年老已無成 |
心惆悵(ちょうちょう)して狐疑す、 | 年老いて已に成す無きことを。 |
うたがはゞ | 百年ふとも | むねにみつ | こヽろのやみは | はるヽ世もなし |
仏の道を信じなければ、百年たっても心の闇は深まるばかりで晴れることはあるまい(武田智孝氏訳)。
060
彼此莫相喰 | 蓮花生沸湯 |
彼此相喰ふこと莫(まな)くんば、 | 蓮花沸湯に生ぜん。 |
注) 「喰」の正字は口扁に敢(くらふ)。
おのがつくる | 罪し消えなば | あつき湯の | 中もはちすの | ひらけざらめや |
人間の罪深さが消えるというのは、熱湯の中で蓮の花が開く奇蹟と同じくらい起こりえない、それくらい人間というのは罪深い存在だ(武田智孝氏訳)。