寒山詩偈讃歌 13
051
洛陽多女兒 | 春日逞華麗 |
洛陽に女兒多し、 | 春日華麗を逞(たくまし)うす。 |
百年も | かはらでにほふ | 花なれば | はるもたのしく | ながめむものを |
咲き匂う花々がいつまでも変わらず咲き続けるのであれば、春もひたすら楽しいばかりだろうが、やがて散る花であれば、楽しさの中に寂しさや悲しみもまじってくる、それもまた良いではないか(武田智孝氏訳)。
052
看花愁日晩 | 隱樹怕風吹 |
花を看ては日の晩(おそ=夕暮れ)きを愁ひ、 | 樹に隱れては風の吹くに怕(お=おそれる)ず。 |
花にうらむ | 風もさくらも | ひとつ色と | しらぬまよひに | なげく世の人 |
盛りを過ぎた桜の色や、風に吹かれて散ってしまう花びらも、同じ桜の移ろいであることを知らずに、嘆く人たちの何と多いことよ。
053
為觀失道者 | 鬢白心惶惶 |
為に觀よ道を失する者、 | 鬢白うして心惶惶たり。 |
身にかざる | こがね白金 | 何かせむ | こヽろの玉の | 色をしりなば |
自分の心の内に金銀の輝きを知っていれば、身に飾る宝飾品は不要でありのままでよい。
054
蚊子釘鐵牛 | 無渠下觜處 |
蚊子鐵牛に釘(くぎう)つ。 | 渠(きょ=首領)觜を下す處無し。 |
くもり行く | 心のやみに | おに神の | まがも身にそふ | ものとしりなば |
曇って暗くなってゆく心の闇には、いつの間にか鬼神の禍が棲みつくものだと知っておいてほしいものだ(武田智孝氏訳)。
055
悠悠不見清 | 人人壽有極 |
悠悠として清むことを見ず。 | 人人壽極り有り、 |
身につもる | よはひをしらで | いたづらに | 過しなゆきそ | わかきその間を |
段々と年をとってゆくことを知らずに、虚しく時を過ごしては決してならぬ。若いうちは特にそうだ。