寒山詩偈讃歌 12
046
今日揚塵處 | 昔時為大海 |
今日塵を揚處、 | 昔時は大海為(た)り |
名におへる | ならのみやこの | 八重さくら | あとだにとめぬ | 野原にぞきく |
かの有名な奈良の都の八重桜が散ってしまい、その跡形すら全く残っていなかったので、思わずその野原にどうしたのかと聞いてみた。
047
含笑樂呵呵 | 啼哭受殃抉 |
笑を含んで樂しみ呵呵たれども、 | 啼哭(ていこく=大声で泣く)して殃抉(わうけつ=災い)を受けん。 |
たのしとて | 地ごくのたねを | まきそふる | 心おもへば | あはれなりけり |
楽しいからと云って、地獄に落ちてしまいそうな原因をまき散らす行動は悲しいことだ。
048
肯信有因果 | 頑皮早晩裂 |
肯て因果あることを信ぜんや。 | 頑皮早晩(いつか)裂けん。 |
生きて世に | 見るかげもなき | かたちこそ | むくふ因果の | 姿なりけり |
人生を過しているうちに、過去の華やかな実績が想像できないほど、みすぼらしい姿になってしまうのは、因果関係そのものの実態なのだ(必ずどこかにその原因が潜んでいる)。
049
投之一塊骨 | 相與啀喋爭 |
之に一塊の骨を投ずれば、 | 相與に啀喋(がいさい)として爭ふ。 |
名と利とを | ねがふあまりに | 身につもる | 苦しさを知る | 人ぞすくなき |
名声と巨利を求めるあまり、(その反動として)体が弱り、精神的にも苦しさが増えてしまうことを知っている人は極めて少ない。
050
鴟鴉飽猥倭 | 鸞鳳飢彷徨 |
鴟鴉(しあ=ふくろうとからす)は飽いて猥倭(わいすい)、 | 鸞鳳は飢えて彷徨(ほうこう)。 |
注) 「猥」と「倭」の正字はいずれも月扁。
よる光る | 玉もしる人 | なき世には | つちかはらにも | およばざりけり |
夜になると光り輝く宝物があることを知っている人がいない世の中であれば、その貴重な宝物は値打ちのない土や瓦にも劣ってしまうものだ。