寒山詩偈讃歌 10
036
室中雖翁曖 | 心裡絶喧囂 |
室中翁曖たりと雖も、 | 心裡喧囂(けんごう=やかましいさま)を絶す。 |
注) 「翁」の正字は、「日扁に翁」
露じもの | もるばかりなる | 草の屋も | こヽろしずめば | のどかなりけり |
露や霜が漏るような草ぶきの粗末な家でも、心を落ち着かせば静かでのんびりできるものだ。
037
用之若失所 | 一闕復一虧 |
之を用ふるに若し所を失はば、 | 一闕(=宮城)復た一虧(き=欠)。 |
人の知も | 品さま/\に | もちひずば | かはるうつはも | かいやなからむ |
人の持つ知識も色々な角度から利用しなければ、様々なきれいな器もだいなしになってしまうであろう。
038
始憶八尺漢 | 俄成一聚塵 |
始め八尺の漢と憶(おも)ひき、 | 俄に一聚の塵となる。 |
ときめきし | 人のすがたも | 夢の間に | 山路のちりと | なるぞはかなき |
すばらしく魅力あふれる人だと思っていたのに、いつのまにか忘れられてしまう様は、なんと虚しいことであろうか。
039
自矜美少年 | 不信有衰老 |
自ら矜る(ほこる)美少年、 | 衰老の有ることを信ぜず。 |
うるはしと | ほこる姿も | あはれなり | かしらに雪の | つむをしらずて |
自分は麗しいと自慢している姿も、やがて白髪の老人となるであろうことを思い見ないでいるのは、何と哀れなことだろう(武田智孝氏添削)。
040
竟日常如醉 | 流年不暫停 |
竟日(ひねもす)常に醉へるが如し。 | 流年暫くも停らず。 |
見し夢の | さむる世もなく | とし月を | まよひて過す | 人のおろかさ |
夢を追いかけ続けて、何年もさまよいながら過す人は、何と愚かで未熟なことであろう。