寒山詩偈讃歌 9
031
欲往蓬莱山 | 將此充糧食 |
蓬莱の山に往かんと欲し、 | 此を將(も)つて糧食に充つ。 |
われにある | たからをすてヽ | 仙人の | すみかたづぬる | 身ぞあはれなる |
自分の持っている宝を放棄してまで、仙人の暮らす住家を訪ねるほど、きのどくなことはない。
032
時訪豐乾老 | 仍來看拾公 |
時に豐乾(ぶかん)老を訪ね、 | 仍(しきりに)來つて拾公(=拾得)を看る。 |
人しらぬ | 月日のひかり | もろともに | てらしあひつヽ | たのしかるらん |
だれも知らないうちに月光や日光が互いに照らしあっている年月が経てゆく姿は、何と光輝く楽しい事であろうか。
033
今日又不修 | 來生還如故 |
今日又た修めずんば、 | 來生還(らいしょうま)た故の如けん。 |
立かへり | 來む世のつみを | おそれなば | この世にみがけ | 玉のひかりを |
何度も何度も来世での罰を怖がるのであれば、生きている内に善行を繰り返すことだ。
034
衰傷百年内 | 不免歸山丘 |
衰傷す百年の内、 | 山丘に歸するを免れざることを。 |
花もみぢ | 終にちるべき | ことわりを | さとりしりなば | つとめざらめや |
見事に紅葉したもみじも、最後には散ってしまう道理を知っていれば、なお一層紅葉に努めずにはおられようか(武田智孝氏訳)。
035
昨日會客場 | 惡衣排在後 |
昨日客の場に會し、 | 惡衣にて排(しりぞ)けられて後に在り。 |
はかなしや | 身にある玉を | しらずして | みゆるにしきを | 人のたふとぶ |
自分の心の中にある大切なものを知らずに、外見の良さだけで他人が貴いと評価するのは、何とあさはかなことではあろうか。