寒山詩偈讃歌 8
026
苔滑非關雨 | 松鳴不假風 |
苔滑かにして雨に關ず(かかわらず)。 | 松鳴りて風を假ず(借りず)。 |
こけむせる | み山のまつの | 風なくて | しらぶる音の | しづかなるかな |
苔が生い茂る深い山には松籟もなく、音楽を奏でる音色のなんと静かであることよ。
027
彈指不可論 | 行恩却遭刺 |
彈指して論ず可からず。 | 恩を行つて却つて刺さる。 |
うきしづむ | 苦海の人を | いつかわれ | おぼれてすくふ | 身とはなるらむ |
苦しみの絶えないこの世で、もがき苦しんでいる人をおぼれてでも救いたい人間になりたいものだ。
028
隈墻弄蝴蝶 | 臨水擲蝦蟆 |
墻(垣)に隈(そ)うて蝴蝶を弄び(もてあそび)、 | 水に臨んで蝦蟆(がま)を擲つ(なげうつ)。 |
春花も | 月も紅葉も | 見る夢の | さめぬその間は | 色ことにして |
春の桜の花にしても、月や紅葉なども夢が冷めないうちは、それぞれの色はしっかり異なっているものだ。
029
昔日於貧我 | 今我笑無錢 |
昔日は我よりも貧なりき | 今(けふ)は我錢無きを笑 |
ゆめの間に | 淵瀬とかはる | 世のさまを | しらでわらふも | あはれなる身や |
はかない人生の浮沈が激しい実情を知らずに、嘲笑する人は何と哀れなことよ。
030
倉米已赫赤 | 不貸人鬥升 |
倉米已に赫赤(かくせき)なれども、 | 人に斗升(とます)を貸さず。 |
人をすくふ | 心もなくて | おのれのみ | ぢごくのたねを | つめるおろかさ |
他人を助ける気持ちもなくて、自分だけが地獄に落ちるような振る舞いを、せっせと行うのは何と愚かな事であろう。