寒山詩偈讃歌 7
021
賴我安居處 | 此曲舊來長 |
賴(さひはひ)に我が安居の處、 | 此の曲舊來長し。 |
いくよろづ | つたへてのこる | しらべをも | きく人のなき | 世にもあるかな |
さまざまな曲が伝え残されてきても、それを聴く人は少ない世の中であることだ。
022
謂言最幽野 | 巖岫深嶂裏 |
謂ふ言(わ)れ最も幽野なりと。 | 巖岫(がんう)深嶂の裏、 |
にしきなす | みやこ大路の | 花よりも | 深山の色の | なつかしきかな |
雅やかな京の都の桜よりも、人里離れた山の景色の方が懐かしいのはどうしてであろうか。
023
入夜歌明月 | 侵晨舞白雲 |
夜に入つて明月に歌ひ、 | 晨を侵して白雲に舞ふ。 |
しら雲の | はるヽ深山に | てる月の | すめる光は | 世にたぐひなし |
雲のない晴れ渡った奥山に、照り輝く月の光は類を見ない美しさだ。
024
棲桐食竹實 | 徐動合禮儀 |
桐に棲み竹實を食ふ。 | 徐(しずかに)動きて禮儀に合(かな)ひ、 |
たふとしな | ひじりの御代に | すむ鳥の | くすしき聲を | きヽし君はも |
注) 「ひじりの御代にすむ鳥」 鳳凰をいふ
高貴な鳳凰の。神秘的な鳴き声を、聞いたのはあなたなんだなあ。
025
家中何所有 | 唯有一牀書 |
家中何の有る所ぞ。 | 唯一牀(しょう=床)の書のみ有り。 |
あれはてヽ | みるかげもなき | 草の屋に | むかしをしのぶ | 文は有けり |
荒れ果てて見る影もない粗末な家に、昔が偲ばれる書物が、そこにありました。