寒山詩偈讃歌 6
016
山花笑綠水 | 巖樹舞青煙 |
山花綠水に笑ひ、 | 巖樹青煙に舞ふ。 |
おもしろき | 春にも有るかな | さく花を | つヽむ霞も | 色ににほいて |
注) 「匂ひて」 こヽは色のうつくしく映ずる義。
何と風情のある春であろうか。さくらの花を包んでいる霞も色に染まっているようだ。
017
可來白雲裡 | 教爾紫芝歌 |
來る可し白雲の裡、 | 爾(なんじ)に紫芝の歌を教へん。 |
とこしへに | かはらぬ道を | をしふべし | 白雲かヽる | 山にきたらば |
白雲がかかるような高い山に来たからには、永遠に変わらない道があることを教えるべきである。
018
十年歸不得 | 忘却來時道 |
十年歸ることを得ずんば、 | 來時の道を忘却せん。 |
年をへて | 山にすむ身は | 分きつる | 道さへわかず | 今はなりけり |
年をとって山にこもってしまったこの身では、今ではどの道が正しいのか分別もつかなくなってしまった。
019
醍醐與石蜜 | 至死不能嘗 |
醍醐と石蜜(しゃくみつ)と、 | 死に至るだも嘗(な)むること能はず。 |
世にすめば | まことのみちの | たへなるを | 死する時だに | しる人もなし |
真の道が妙なるものであることを、いよいよ死ぬるという時になってもなかなか分かる人がいないものだ(武田智孝氏訳)。
020
其中半日坐 | 忘却百年愁 |
其の中半日の坐、 | 百年の愁を忘却す。 |
しばしだに | こヽろすみなば | 百とせの | よのうき身をも | わすれはつへし |
ほんの一時でも心が清純になれば、百年のつらいことの多い身の上さえも、忘れ果ててしまうものだ。