寒山詩偈讃歌 5
011
不如鴻興鶴 | えうやう入雲飛 |
如かず鴻と鶴と | えうやうとして雲に入りて飛ばんには。 |
註) 「えう」の正字は、「遥のしんにようを外したもの+風」、「やう」の正字は「風+易」。
なれが身に | うるはしき色の | なかりせば | つると雲井に | かけらむものを |
あなたの体に美しい色がないのであれば、鶴が大空に向かって、高々と飛んでいってしまうのに。
012
其貌勝仙人 | 容華若桃李 |
其の貌仙人に勝り、 | 容華桃李の若(ごと)し。 |
一さかり | 過ぐれば花も | 何かせむ | つひのたヽきの | 身とはしらずや |
最盛期を過ぎた花も何が出来ると言うのであろうか。最後には細かく刻まれてしまう身とは知らないのに。
013
誰當來嘆賀 | 樵客屡經過 |
誰か當に來つて嘆賀すべき、 | 樵客(せうかく=きこり)屡經過するのみ。 |
月影を | めづるもおろか | おくやまの | こけのしたにぞ | おもひしるべき |
月のあかりを褒めるのは愚かしいことだ。奥山にひっそりと生えている苔のその下に何があるかを考えるべきである。(見える物ばかりを探求しても、あまり意味がない。見えない物をかんがえることが大事である。)
014
山果み猴摘 | 池魚白鷺銜 |
山果み猴摘み、 | 池魚白鷺銜(ふく)む |
ましら鳴く | みやまの奥の | いけ水を | くみて世をふる | 身こそたすけれ |
猿が啼いているような奥深い山の池水を汲んで世の中を送っている身であればこそ、真の値打ちのあるものだ。
015
萬物有代謝 | 九天無朽摧 |
萬物に代謝有れども、 | 九天に朽摧無し。 |
花もみぢ | 消えゆく冬も | あめつちの | まことのいろは | あする世もなし |
紅葉が終わって散ってゆく冬でも、自然界のあたりまえの色が褪せるようになることはない。