寒山詩偈讃歌 4
006
今日既老矣 | 餘生不足云 |
今日既に老いぬ。 | 餘生云ふに足らず。 |
髪白く | こしかゞまりし | 老の身は | あすのさかえも | おもはざりけり |
白髪で腰が曲がってしまったこの年老いた体では、将来の繁栄など思いも及ばない。
007
餓著首陽山 | 生廉死亦楽 |
餓えて首陽山に著(つ)かば、 | 生きては廉(かど=私欲がない)に死しても亦楽し。 |
後の世に | うゑし蕨の | 名をとめて | きえけむ人や | たのしかりけむ |
ある人が死んだ後に(記念として)ワラビを植え、その名前を後世に残せば、(その後)あの世に行った人々は精神的に満ちあふれ、快かったであろう。
008
寒山路不通 | 夏天氷未釋(解) |
寒山路通ぜず。 | 夏天に氷未だ解けず、 |
夏の日も | とけぬ氷の | みやま路は | よにすむ人の | いかでこゆべき |
夏になっても溶けない氷が張っている奥山の路は、生活を抱えているひとたちにとって、どのように越えたら良いのであろうか。
009
可惜棟梁材 | 抛之在幽谷 |
惜む可し棟梁の材、 | 之を抛(ほお)つて幽谷に在(お)く |
あはれたゞ | ひとり深山に | 千とせふる | かしの大木は | しるひともなし |
なんと哀れな事だろう。千年という長い間、人里離れた深い山に、ただ一本植わっている樫の大木があることを誰も知らないとは。
010
高低舊雉喋 | 大小古墳瑩 |
高低舊雉喋(ちてふ)。 | 大小古墳瑩(えい)。 |
はかなしや | 終の住家は | 露霜の | ふかき草葉の | 底にしづみて |
何と、はかないことだろう。(私の)最後に安住する所は雑草が生い茂って、露や霜が地面にまで降り注いでいるとは。