寒山詩偈讃歌 3
本文
寒山の詩をよみて一句の心をうたによみこころみむとおもいたちて、さびしき折々二三をよみて侍れど、つたなきまヽいかにやと思ふふしも多けれど、そはなほかうがへもせむとこたびはよめるまヽをしるして書付おくになむ。
明治庚戌の春
自在庵の北窓にしるすを人わらふなかれ 洛北隠子廣川
現代語訳
寒山の詩を読んでみて、一句の神髄を和歌にしたため読んでみようと思い立って、暇な折に2句3句を詠んでみたが、下手なままでどうだろうかと思ってもみたが、そのことは考えまいと、今回は読んだままを書き記しておこう、と強く考えるに至った。
明治43年の春
自在庵の北の窓で書くことを決して笑わないで下さい。
001
庭際何所有 | 白雲抱幽石 |
庭際何の有る所ぞ。 | 白雲幽石を抱く。 |
塵の世を | よそに深山の | しづけさは | 庭のいはをも | 雲につヽみて |
世俗のよごれに関係の無い奥深い山の静けさは、庭石も雲に包まれているようだ。
002
泣露千般草 | 吟風一様松 |
露に泣く千般の草、 | 風に吟ず一様の松。 |
まつ風に | 露ちるくさの | しづくのみ | 人なき山の | 友ときヽつヽ |
松の間を抜ける涼しげな風を待ってみても、露が滴り落ちる草の滴だけだ 。人気のない山で友人と一緒にその気配を感じながら。
003
踐草成三徑 | 瞻雲成四隣 |
草を踐んで三徑を成し、 | 雲を瞻(み)て四隣と作す。 |
注) 「三すぢの道」 昔将翊といふ人は幽居に三の徑をひらきたり。陶淵明もこれに倣へり。これより。佗住居の庭にいふことヽなる。
たち隔つ | 雲をとなりの | 心ちして | みすぢの道を | かよふしづけさ |
遠くにある雲を、あたかも隣に居るような思いで、わび住居の庭に通うこと、なんと静かなことよ。
004
琴書須自隋 | 祿位用何為 |
琴書は須らく自ら隋ふべし。 | 祿位用(も)つて何か為さん |
風ならす | まつの小琴を | きヽながら | ふみよむ身には | 世をもおもはず |
風が松の木に当たり小さな琴を鳴らしているようにきこえ、そこで読書をするのは熱中できてすばらしい。世俗を忘れてしまうほどだ。
005
郷國何迢遞 | 同魚寄水流 |
郷國何ぞ迢遞(てうてい)たる。 | 魚の水流に寄るに同じ。 |
山水の | かヽる小池に | すむ魚の | あやうさしらぬ | 人の世の中 |
山の清水が注ぎ込んでいる、小さな池に住み着いている魚は、人の世の中が危険なことを知るよしもない。