光尚君御家譜抜書 37
晴や可尓有之間敷候間府外ニ居て暖々保養仕候得望ニ満可せ
何方ニ成り共山荘之地可被下よし也又七郎身ニ餘り難有よし
御請申上退出仕候得ハ是を承り候面々扨々御手柄と
賞美申鳧ニ又七郎申候ハ段々結構ニ被 仰付難有奉存傳え承る
元亀天正之頃ハ合戦ト城攻武士朝夕之茶飯のことし阿部
兄弟可こと支の事ハ朝茶のこ奈らんと笑ひ候と也かくのことく
又七郎御感賞ニ預り候者御免を被り帝手ニ合候故也然ハ
堅く御意を守り出合ふ申山中又兵衛事身罷ト人口悪敷聞之
候間又兵衛是非ニ不及次弟ト存候而御暇願申候処 光尚君被思召
栖本可御意を背堂るも尤ニ被答候山中可御意を守り申候ハ其
筈の事也迚御留メ被遊候又兵衛是を深く難有奉存故御追腹仕候と也
くずし字解読
府外ニ居て暖々保養仕候得望ニ満可せ(ふがいにおいて、だんだん、ほようつかまつりそうらえ、のぞみにまかせ)。城外に居して気持ちよく保養をしなさい。希望の通りに。
何方ニ成り共山荘之地可被下よし也(いずかた、なりども、さんそうのち、くださるべく、よしなり)。どこにでも山荘の土地をくださる、ということであった。
御請申上退出仕候得ハ是を承り候(おうけもうしあげ、たいしゅつ、つかまつりそうらへば、これをうけたまはりそうろう)。退出することをお願いして退いたら、このことを施行した。
結構ニ被 仰付難有奉存傳え承る(けっこうに、おおせつけられ、がたくあり、ぞんじたてまつり、つたえうけたまはる)。お褒め頂いたことについては、(次第に)気まずい思いがしてきたと伝え聞いている。
合戦ト城攻武士朝夕之茶飯のことし(かっせんと、しろぜめ、ぶし、ちょうせきの、ちゃめしのごとし)。(元亀・天正時代の頃は)合戦と城攻めは、朝夕の茶飯のようにあたりまえだった。
朝茶のこ奈らんと笑ひ候と也(あさちゃのこ、ならんと、わらひそうろうとなり)。朝茶の子であろうと笑い飛ばしたとのこと。
御感賞ニ預り候者御免を被り帝(ごかんしょうに、あずかりそうろうは、ごめんをこうむりて)。手柄を褒めて与える褒美に対しては遠慮を申し上げて。
堅く御意を守り出合ふ申(かたく、ぎょいをまもり、であふもうす)。命令を堅く守って対処したと言う(山中又兵衛については)。
是非ニ不及次弟ト存候而御暇願申候処(ぜひにおよばぬ、しだいと、そんこうて、おいとまねがい、もうしそうろところ)。そうするより他はないと考えて、辞職を願い出たところ。
栖本可御意を背堂るも尤ニ被答候(すもとが、ぎょいをそむきたるも、もっともに、こたえられそうろう)。栖本が命令に違反したのももっともの事だとお答えになった。
是を深く難有奉存故御追腹仕候と也(これをふかく、ありがたく、ぞんじたてまつるゆえ、おんおひばら、つかまつりそうろうとなり)。光尚君のお考えに対して、大変ありがたく考えたので、光尚君の死後切腹をした(殉死した)とのことであった。