光尚君御家譜抜書 35
上意申渡候其後内臓允を被 召出又七郎働
御感之旨御意之儀米田監物より申渡し候と也
栖本又七郎ハ生質温和尓し帝文武ニ志し深く妻女も貞潔ニ
して愛有希るよし阿部とハ隣家内外之交り厚く阿部可
子共ハ又七郎夫婦を常ニ叔父様叔母様と云帝馴志多しミ候
と也然ニ阿部一家之者御咎メを蒙りて後ハ上を憚り心の外ニ
疎々敷成し尓阿部兄弟滅亡近ニ阿ると聞え希連ハ又七郎申希るハ
日頃の志多しミいり手王り奈支迚も上を憚り王連らハ占ひ
てもとひ難し女の事ハ御咎メも有満し希連ハ夜更比と
志川満つ帝忍ひ聞ニとひ慰メ候得とて由るし希連ハ妻
喜び或夜密ニ阿部屋敷ニ至候得ハ兄弟の妻子とも尓
くずし字解読
上意申渡候其後(じょうい、もうしわたしそうろう、そのご)。上司の考え方を伝えた。その後。
御感之旨御意之儀(ぎょかんのむね、ぎょいのぎ)。(殿様が)感心されたことはその通りであると。
栖本又七郎ハ生質温和尓し帝(すもとまたしちろうは、せいしつ、おんわにして)。栖本又七郎の性質は温和で。
阿部とハ隣家内外之交り厚く(あべとは、りんか、うちそとの、まじわりあつく)。阿部家とは隣で、内輪のことと、表向きのこととの交際は親密で。
子共ハ又七郎夫婦を常ニ(こどもは、またしちろう、ふうふを、つねに)。子供は又七郎夫婦をいつでも。
御咎メを蒙りて後ハ上を憚り(おとがめを、かがほりてのちは、うえをはばかり)。非難をされてから後は、上司を恐れ慎み。
滅亡近ニ阿ると聞え希連ハ(めつぼう、ちかくに、あると、きこえければ)。(阿部兄弟が)滅亡してしまいそうだとの噂をきくと。
日頃の志多しミいり手王り奈支迚も(ひごろの、したしみいりて、わりなき、とても)。日頃の親交が厚く理屈や分別を超えて親しいと言っても所詮(=どっちみち)。
女の事ハ御咎メも有満し希連ハ(おんなのことは、おとがめも、あるまじきければ)。女性の事柄については、責められたり非難されることもないと思われるので。
慰メ候得とて由るし希連ハ(なぐさめ、そうらえとて、ゆるしければ)。慰めることができるということで、許すと。
或夜密ニ阿部屋敷ニ至候得ハ(あるよる、みつに、あべやしきに、いたり、そうらえば)。とある夜、こっそりと阿部屋敷を訪れると。